悔しう思さる る 品詞。 「藤壺から若紫へ」

文化庁

悔しう思さる る 品詞

1 受身…[〜れる・〜られる] る よのつねならぬさまなれども、人にいとは れず、よろず許されけり。 (徒然草・六〇段) (世間並みとは違う有様であったが、人々に嫌われず、すべて許されていた。 ) [未然] 名利に使は れて、しづかなるいとまなく、一生を苦しむこそ、愚かなれ。 (徒然草・三八段) (名誉・利益に追われて、心静まることなく、一生を苦しむのは、愚かなことである。 ) [連用] 洛に帰りて貞徳の門人となつて世に知ら る。 (おくのほそ道) (京都に帰って貞徳の門下に入って世間に知られるようになった。 ) [終止] 親はらからの中にも、思は るる思はれぬがあるぞいとわびはしきや。 (枕草子・二六七段) (親・兄弟の中であっても、愛される、愛されないがあるのはさびしいものである。 ) [連体] 軍 [いくさ]はまた親も討た れよ、子も討た れよ。 (平家物語・富士川) (戦いになれば、親も討ち死にされよ、子も討ち死にされよ。 ) [命令] 2 尊敬…[〜なさる・お〜になる・〜れる・〜られる] る ものもいはずうつぶきたりける時に、俊頼朝臣忍びやかに笑は れけり。 (無名抄) (何も言わずにうつむいた時に、俊頼朝臣はこっそりと笑われた。 ) [連用] かの大納言、いづれの舟にか乗ら るべき。 (大鏡・頼忠) (あの大納言(藤原公任)は、どの舟にお乗りになるのだろう。 ) [終止] この頃詠ま るる歌は、少しも思ひも入れず、 (無名抄) (この頃詠まれる歌は、少しも気持ちを打ち込まず、) [連体] かようの契りをなさ るれば、申し侍るなり。 (無名抄) (このような(子弟の関係を)約束を結ばれたので、申し上げているのです。 ) [已然] さらば疾 [と]う帰ら れよ。 (平家物語・行隆之沙汰) (そういうことなので、早くお帰りなさい。 ) [命令] 3 自発…[自然に〜れる・自然に〜れてくる] る 興なき事を言ひてもよく笑ふにぞ、品のほどはから れぬべき。 (徒然草・五六段) (面白くないこと言ってもよく笑うのは、人格の程度が自然と推し量れるにちがいない。 ) [未然] 初めて灰にて候ひけりと知ら れて、その後は食べずなりぬ。 ) [連用] はじめて過ぎぬるかたの誤れる事は知ら るなれ。 (徒然草・四九段) ((この世を去ろうとする時に、)はじめて、過ぎてしまった誤りにおのずと気づくものだ。 ) [終止] 名を聞くより、やがて面影は推しはから るる心地するを、 (徒然草・七一段) (名前を聞くとすぐにその人の顔つきが推測されてくる心地がするのだが、) [連体] なほこそ国の方は見やら るれ、わが父母ありとしおもへば。 (土佐日記・一月二一日) (やはり国の方に目がいってしまう。 父と母がそこにいるので。 ) [已然] 4 可能…[〜できる・〜れる・〜られる] る すべて、あら れぬ世を念じすぐしつつ、心をなやませること、三十余年なり。 (方丈記) (総じて、住みにくい世の中を耐え過ごしつつ、心労すること、三十余年になる。 ) [未然] かくてもあら れけるよと、あはれに見るほどに、 (徒然草・一一段) (こんなふうにしていても住めるものだと、感心して見ていると、) [連用] 冬はいかなる所にも住ま る。 (徒然草・五五段) (冬はどんな場所でも住むことができる。 (大鏡・頼忠) (あの大納言(藤原公任)は、どの舟にお乗りになるのだろう。 (土佐日記・二月一六日) (生まれた新しい松の木が交じっている。

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万葉集/第十二巻

悔しう思さる る 品詞

検索結果 『源氏物語』の敬意表現「はべり」 1999. 6 検索結果 「本文」の中の「はべり」 かつ、 「巻名」の中の「きりつぼ」を検索しました。 全部で 4件です。 [きりつぼ][104] 「『参りてはいとど心苦しう、心肝も尽くるやうになん』と、典侍の奏したまひしを、もの思うたまへ知らぬ心地にも、げにこそいと忍びがたう はべり けれ」とて、ややためらひて、仰せ言伝へきこゆ。 [きりつぼ][104] 若宮の、いとおぼつかなく、露けき中に過ぐしたまふも、心苦しう思さるるを、とく参りたまへ』など、はかばかしうも、のたまはせやらず、むせかへらせたまひつつ、かつは人も心弱く見たてまつるらむと、思しつつまぬにしもあらぬ御気色の心苦しさに、うけたまはりはてぬやうにてなん、まかで はべり ぬる」とて御文奉る。 [きりつぼ][106] 夜更けはべりぬべし」とて急ぐ。 [きりつぼ][107] 我亡くなりぬとて、口惜しう思ひくづほるな』と、かへすがへす諌めおかれ はべり しかば、はかばかしう後見思ふ人もなき交らひは、なかなかなるべきことと思ひたまへながら、ただかの遺言を違へじとばかりに、出だし立てはべりしを、身にあまるまでの御心ざしの、よろづにかたじけなきに、人げなき恥を隠しつつ、交らひたまふめりつるを、人のそねみ深くつもり、やすからぬこと多くなり添ひはべりつるに、よこさまなるやうにて、つひにかくなりはべりぬれば、かへりてはつらくなむ、かしこき御心ざしを思ひたまへられはべる。 検索結果 「本文」の中の「はべり」 かつ、 「巻名」の中の「はゝき木」を検索しました。 全部で 38 件です。 [はゝき木][131] おしなべたるおほかたのは、数ならねど、ほどほどにつけて、書きかはしつつも見 はべり なん。 [はゝき木][132] おのがじしうらめしきをりをり、待ち顔ならむ夕暮などのこそ、見どころはあらめ」と怨ずれば、やむごとなくせちに隠したまふべきなどは、かやうにおほぞうなる御廚子などにうち置き、散らしたまふべくもあらず、深くとり置きたまふべかめれば、二の町の心やすきなるべし、片はしづつ見るに、「よくさまざまなる物どもこそはべりけれ」とて、心あてに、「それか」「かれか」など問ふなかに、言ひあつるもあり、もて離れたることをも思ひ寄せて疑ふもをかしと思せど、言少なにて、とかく紛らはしつつとり隠したまひつ。 [はゝき木][136] なにがしが及ぶべきほどならねば、上が上はうちおきはべりぬ。 [はゝき木][142] 童にはべりし時、女房などの物語読みしを聞きて、いとあはれに、悲しく、心深きことかなと、涙をさへなん落しはべりし。 [はゝき木][147] 「はやう、まだいと下臈にはべりし時、あはれと思ふ人はべりき。 [はゝき木][148] 聞こえさせつるやうに容貌などいとまほにもはべらざりしかば、若きほどのすき心には、この人をとまりにとも思ひとどめはべらず、よるべとは思ひながら、さうざうしくて、とかく紛れはべりしを、もの怨じをいたくしはべりしかば、心づきなく、いとかからで、おいらかならましかばと思ひつつ、あまりいとゆるしなく疑ひはべりしもうるさくて、かく数ならぬ身を見もはなたで、などかくしも思ふらむと、心苦しきをりをりもはべりて、自然に心をさめらるるやうになんはべりし。 [はゝき木][148] この女のあるやう、もとより思ひいたらざりけることにも、いかでこの人のためにはと、なき手を出だし、後れたる筋の心をも、なほ口惜しくは見えじと思ひ励みつつ、とにかくにつけて、ものまめやかに後見、つゆにても心に違ふことはなくもがなと思へりしほどに、すすめる方と思ひしかど、とかくになびきてなよびゆき、醜き容貌をも、この人に見や疎まれんと、わりなく思ひつくろひ、疎き人に見えば面伏せにや思はんと、憚り恥ぢて、みさをにもてつけて、見馴るるままに、心もけしうはあらずはべりしかど、ただこの憎き方ひとつなん心をさめずはべりし。 [はゝき木][148] そのかみ思ひはべりしやう、かうあながちに従ひ怖ぢたる人なめり。 [はゝき木][150] つらき心を忍びて、思ひ直らんをりを見つけんと、年月を重ねんあいな頼みは、いと苦しくなんあるべければ、かたみに背きぬべききざみになむある』と、ねたげに言ふに、腹立たしくなりて、憎げなることどもを言ひ励ましはべるに、女もえをさめぬ筋にて、指ひとつを引き寄せて、食ひてはべりしを、おどろおどろしくかこちて、『かかる傷さへつきぬれば、いよいよ交らひをずべきにもあらず。 [はゝき木][151] 『手を折りてあひみしことを数ふればこれひとつやは君がうきふしえ恨みじ』など言ひはべれば、さすがにうち泣きて、うきふしを心ひとつに数へきてこや君が手を別るべきをりなど言ひしろひはべりしかど、まことには変るべきこととも思ひたまへずながら、日ごろ経るまで消息も遣はさず、あくがれまかり歩くに、臨時の祭の調楽に夜更けて、いみじう霙降る夜、これかれまかりあかるる所にて、思ひめぐらせば、なほ家路と思はむ方はまたなかりけり。 [はゝき木][151] さるべき女房どもばかりとまりて、『親の家にこの夜さりなん渡りぬる』と答へはべり。 [はゝき木][152] 艶なる歌も詠まず、気色ばめる消息もせで、いとひたや寵りに情なかりしかば、あへなき心地して、さがなくゆるしなかりしも我を疎みねと思ふ方の心やありけむと、さしも見たまへざりしことなれど、心やましきままに思ひはべりしに、着るべき物、常よりも心とどめたる色あひしざまいとあらまほしくて、さすがにわが見棄ててん後をさへなん、思ひやり後見たりし。 [はゝき木][152] さりとも絶えて思ひ放つやうはあらじと思うたまへて、とかく言ひはべりしを、背きもせず、尋ねまどはさむとも隠れ忍びず、かかやかしからず答へつつ、ただ、『ありしながらはえなん見過ぐすまじき。 [はゝき木][152] あらためてのどかに思ひならばなんあひ見るべき』など言ひしを、さりともえ思ひ離れじと思ひたまへしかば、しばし懲らさむの心にて、『しかあらためむ』とも言はず、いたくつなびきて見せしあひだに、いといたく思ひ嘆きてはかなくなりはべりにしかば、戯れにくくなむおほえはべりし。 [はゝき木][152] はかなきあだ事をもまことの大事をも、言ひあはせたるにかひなからず、龍田姫と言はむにもつきなからず、織女の手にも劣るまじく、その方も具して、うるさくなんはべりし」とて、いとあはれと思ひ出でたり。 [はゝき木][153] 「さて、また同じころ、まかり通ひし所は、人も立ちまさり、心ばせまことにゆゑありと見えぬべく、うち詠み走り書き、かい弾く爪音、手つき口つき、みなたどたどしからず見聞きわたりはべりき。 [はゝき木][153] 見るめも事もなくはべりしかば、このさがな者をうちとけたる方にて、時々隠ろへ見はべりしほどは、こよなく心とまりはべりき。 [はゝき木][154] 神無月のころほひ、月おもしろかりし夜、内裏よりまかではべるに、ある上人来あひて、この車にあひ乗りてはべれば、大納言の家にまかりとまらむとするに、この人言ふやう、『今宵人待つらむ宿なん、あやしく心苦しき』とて、この女の家はた避きぬ道なりければ、荒れたる崩れより、池の水かげ見えて、月だに宿る住み処を過ぎむもさすがにて、おりはべりぬかし。 [はゝき木][155] 聞きはやすべき人のある時、手な残いたまひそ』など、いたくあざれかかれば、女、声いたうつくろひて、木枯に吹きあはすめる笛の音をひきとどむべきことの葉ぞなきと、なまめきかはすに、憎くなるをも知らで、また箏の琴を盤渉調に調べて、今めかしく掻い弾きたる爪音、かどなきにはあらねど、まばゆき心地なんしはべりし。 [はゝき木][156] この二つのことを思うたまへあはするに、若き時の心にだに、なほさやうにもて出でたることは、いとあやしく頼もしげなくおぼえはべりき。 [はゝき木][157] 頼むにつけては、うらめしと思ふこともあらむと、心ながらおぼゆるをりをりもはべりしを、見知らぬやうにて、久しきとだえをもかうたまさかなる人とも思ひたらず、ただ朝夕にもてつけたらむありさまに見えて、心苦しかりしかば、頼めわたることなどもありきかし。 [はゝき木][158] かうのどけきにおだしくて、久しくまからざりしころ、この見たまふるわたりより、情なくうたてあることをなん、さる便りありて、かすめ言はせたりける、後にこそ聞きはべりしか。 [はゝき木][158] さるうき事やあらむとも知らず、心に忘れずながら、消息などもせで久しくはべりしに、むげに思ひしをれて、心細かりければ、幼き者などもありしに、思ひわづらひて撫子の花を折りておこせたりし」とて、涙ぐみたり。 [はゝき木][158] 「さて、その文の言葉は」と、問ひたまへば、「いさや、ことなることもなかりきや、山がつの垣ほ荒るともをりをりにあはれはかけよ撫子の露思ひ出でしままにまかりたりしかば、例の、うらもなきものから、いともの思ひ顔にて、荒れたる家の露しげきをながめて、虫の音に競へる気色、昔物語めきておぼえはべりし。 [はゝき木][159] うち払ふ袖も露けきとこなつに嵐吹きそふ秋も来にけりと、はかなげに言ひなして、まめまめしく恨みたるさまも見えず、涙を漏らし落しても、いと恥づかしくつつましげに紛らはし隠して、つらきをも思ひ知りけりと見えむはわりなく苦しきものと思ひたりしかば、心やすくて、またとだえおきはべりしほどに、跡もなくこそかき消ちて失せにしか。 [はゝき木][159] こよなきとだえおかず、さるものにしなして、長く見るやうもはべりなまし。 [はゝき木][159] かの撫子のらうたくはべりしかば、いかで尋ねむと思ひたまふるを、今もえこそ聞きつけはべらね。 [はゝき木][160] 今やうやう忘れゆく際に、かれはた、えしも思ひ離れず、をりをり人やりならぬ胸こがるる夕もあらむと、おぼえはべり。 [はゝき木][161] 「下が下の中には、なでふことか聞こしめしどころはべらむ」と言へど、頭の君、まめやかに、「おそし」と責めたまへば、何ごとをとり申さんと、思ひめぐらすに、「まだ文章生にはべりし時、かしこき女の例をなん見たまへし。 [はゝき木][162] それは、ある博士のもとに、学問などしはべるとて、まかり通ひしほどに、あるじのむすめども多かりと聞きたまへて、はかなきついでに言ひよりてはべりしを、親聞きつけて、盃もて出でて、わが両つの途歌ふを聴けとなん、聞こえごちはべりしかど、をさをさうちとけてもまからず、かの親の心を憚りて、さすがにかかづらひはべりしほどに、いとあはれに思ひ後見、寝覚めの語らひにも、身の才つき、おほやけに仕うまつるべき道々しきことを教へて、いときよげに、消息文にも仮名といふもの書きまぜず、むべむべしく言ひまはしはべるに、おのづからえまかり絶えで、その者を師としてなん、わづかなる腰折文作ることなど習ひはべりしかば、今にその恩は忘れはべらねど、なつかしき妻子とうち頼まむには、無才の人、なまわろならむふるまひなど見えむに、恥づかしくなん見えはべりし。 [はゝき木][163] 目のあたりならずとも、さるべからん雑事らはうけたまはらむ』と、いとあはれに、むべむべしく言ひはべり。 [はゝき木][164] ただ、『うけたまはりぬ』とて、立ち出ではべるに、さうざうしくやおぼえけん、『この香失せなん時に立ち寄りたまへ』と、高やかに言ふを、聞きすぐさむもいとほし、しばし休らふべきにはたはべらねば、げにそのにほひさへはなやかに立ち添へるも、すべなくて、逃げ目を使ひて、『ささがにのふるまひしるき夕暮にひるますぐせと言ふがあやなさいかなることつけぞや』と、言ひもはてず、走り出ではべりぬるに、追ひて、あふことの夜をし隔てぬ仲ならばひるまも何かまばゆからましさすがに口疾くなどははべりき」と、しづしづと申せば、君達、あさましと思ひて、「そらごと」とて、笑ひたまふ。 [はゝき木][168] 暗くなるほどに、「今宵、中神、内裏よりは塞がりてはべりけり」と聞こゆ。 [はゝき木][169] 紀伊守に仰せ言賜へば、うけたまはりながら、退きて「伊予守朝臣の家につつしむことはべりて、女房なんまかり移れるころにて、狭き所にはべれば、なめげなることやはべらん」と下に嘆くを聞きたまひて、「その人近からむなんうれしかるべき。 [はゝき木][172] 「いづれかいづれ」など問ひたまふに、「これは故衛門督の末の子にて、いと愛しくしはべりけるを、幼きほどに後れはべりて、姉なる人のよすがに、かくてはべるなり。 [はゝき木][172] 才などもつきはべりぬべく、けしうははべらぬを、殿上なども思うたまへかけながら、すがすがしうはえ交らひはべらざめる」と、申す。 [はゝき木][173] かの介はいとよしありて、気色ばめるをや」など、物語したまひて、「いづ方にぞ」、「みな下屋におろしはべりぬるを、えやまかり下りあへざらむ」と、聞こゆ。 [はゝき木][174] 「下に湯におりて、ただ今参らむとはべり」と言ふ。 検索結果 「本文」の中の「はべり」 かつ、 「巻名」の中の「夕がほ」を検索しました。 全部で 25 件です。 [夕がほ][210] 花の名は人めきて、かうあやしき垣根になん咲きはべりける」と、申す。 [夕がほ][211] 「鍵を置きまどはしはべりて、いと不便なるわざなりや。 [夕がほ][212] 尼君も起き上りて、「惜しげなき身なれど、棄てがたく思うたまへつることは、ただかく御前にさぶらひ御覧ぜらるることの変りはべりなんことを、口惜しく思ひたまヘたゆたひしかど、戒のしるしによみがヘりてなん、かく渡りおはしますを、見たまヘはべりぬれば、今なむ阿弥陀仏の御光も、心清く待たれはべるべき」など聞こえて、弱げに泣く。 [夕がほ][214] 「揚名介なる人の家になんはべりける。 [夕がほ][217] 「仰せられし後なん、隣のこと知りてはべる者呼びて、問はせはべりしかど、はかばかしくも申しはべらず。 [夕がほ][217] 時々中垣のかいま見しはべるに、げに若き女どもの透影見えはべり。 [夕がほ][217] 昨日、夕日のなごりなくさし入りてはべりしに、文書くとてゐてはべりし人の顔こそ、いとよくはべりしか。 [夕がほ][218] 書きなれたる手して、口とく返りごとなどしはべりき。 [夕がほ][224] 一日、前駆追ひて渡る車のはべりしを、のぞきて、童べの急ぎて、『右近の君こそ、まづ物見たまヘ。 [夕がほ][225] なにがし、くれがし』と数ヘしは、頭中将の随身、その小舎人童をなん、しるしに言ひはべりし」など、聞こゆれば、「たしかにその車をぞ見まし」と、のたまひて、もしかのあはれに忘れざりし人にや、と思ほしよるも、いと知らまほしげなる御気色を見て、「私の懸想もいとよくしおきて、案内も残る所なく見たまヘおきながら、ただ我どちと知らせて、ものなど言ふ若きおもとのはべるを、そらおぼれしてなむ、隠れまかり歩く。 [夕がほ][225] いとよく隠したりと思ひて、小さき子どもなどのはべるが、言あやまりしつべきも、言ひ紛らはして、また人なきさまを強ひて作りはべり」など、語りて笑ふ。 [夕がほ][239] 惟光朝臣の来たりつらんは」と、問はせたまへば、「さぶらひつれど仰せ言もなし、暁に御迎ヘに参るべきよし申してなん、まかではべりぬる」と聞こゆ。 [夕がほ][245] かねて例ならず御心地ものせさせたまふことやはべりつらん」、「さることもなかりつ」とて、泣きたまふさま、いとをかしげにらうたく、見たてまつる人も、いと悲しくて、おのれもよよと泣きぬ。 [夕がほ][246] かの古里は、女房などの悲しびにたヘず、泣きまどひはべらんに、隣しげく、咎むる里人多くはべらんに、おのづから聞こえはべらんを、山寺こそなほかやうの事おのづから行きまじり、物紛るることはべらめ」と、思ひまはして、「昔見たまヘし女房の、尼にてはべる、東山の辺に移したてまつらん、惟光が父の朝臣の乳母にはべりし者のみづはぐみて住みはべるなり。 [夕がほ][246] あたりは人しげきやうにはべれど、いとかごかにはべり」と聞こえて、明けはなるるほどのまぎれに、御車寄す。 [夕がほ][248] 「乳母にてはべる者の、この五月のころほひより、重くわづらひはべりしが、頭剃り戒受けなどして、そのしるしにやよみがヘりたりしを、このごろまた起こりて、弱くなんなりにたる、いま一たびとぶらひ見よと申したりしかば、いときなきよりなづさひし者のいまはのきざみにつらしとや思はんと思うたまへて、まかれりしに、その家なりける下人の病しけるが、にはかに出であヘで亡くなりにけるを、怖ぢ憚りて、日を暮らしてなむ取り出ではべりけるを、聞きつけはべりしかば、神事なるころいと不便なることと思ひたまヘかしこまりて、え参らぬなり。 [夕がほ][248] 昨夜も、御遊びにかしこく求めたてまつらせたまひて、御気色あしくはべりき」と聞こえたまひて、たち返り、「いかなる行き触れにかからせたまふぞや。 [夕がほ][250] 長々と籠りはべらんも便なきを、明日なん日よろしくはべれば、とかくの事、いと尊き老僧のあひ知りてはべるに、言ひ語らひつけはべりぬる」と聞こゆ。 [夕がほ][250] 我も後れじとまどひはべりて、今朝は谷に落ち入りぬとなん見たまヘつる。 [夕がほ][250] 『かの古里人に告げやらん』と申せど、『しばし思ひしづめよ、事のさま思ひめぐらして』となん、こしらヘおきはべりつる」と語りきこゆるままに、いといみじと思して、「我もいと心地なやましく、いかなるべきにかとなんおぼゆる」とのたまふ。 [夕がほ][253] 右近を、「いざ二条院へ」と、のたまヘど、「年ごろ幼くはべりしより片時たち離れたてまつらず馴れきこえつる人に、にはかに別れたてまつりて、いづこにか帰りはべらん。 [夕がほ][254] 惟光、「夜は明け方になりはべりぬらん。 [夕がほ][260] それもいと見苦しきに住みわびたまひて、山里に移ろひなんと思したりしを、今年よりは塞がりける方にはべりければ、違ふとて、あやしき所にものしたまひしを見あらはされたてまつりぬることと、思し嘆くめりし。 [夕がほ][262] 右近は、亡くなりにける御乳母の捨ておきてはべりければ、三位の君のらうたがりたまひて、かの御あたり去らず生ほし立てたまひしを、思ひたまヘ出づれば、いかでか世にはべらんとすらん。 [夕がほ][262] ものはかなげにものしたまひし人の御心を頼もしき人にて、年ごろならひはべりけること」と聞こゆ。 検索結果 「本文」の中の「はべり」 かつ、 「巻名」の中の「わかむらさき」を検索しました。 全部で 31 件です。 [わかむらさき][273] 去年の夏も世におこりて、人々まじなひわづらひしを、やがてとどむるたぐひあまたはべりき。 [わかむらさき][274] 一日召しはべりしにやおはしますらむ。 [わかむらさき][276] かかる所に住む人、心に思ひ残すことはあらじかし」とのたまヘば、「これはいと浅くはべり。 [わかむらさき][277] 大臣の後にて、出で立ちもすべかりける人の、世のひがものにて、交らひもせず、近衛中将を棄てて、申し賜はれりける司なれど、かの国の人にもすこしあなづられて、『何の面目にてか、また都にもかヘらん』と言ひて、頭髪もおろしはべりにけるを、すこし奥まりたる山住みもせで、さる海づらに出でゐたる、ひがひがしきやうなれど、げに、かの国の内に、さも人の籠りゐぬべき所どころはありながら、深き里は人離れ心すごく、若き妻子の思ひわびぬべきにより、かつは心をやれる住まひになんはべる。 [わかむらさき][277] 先つころ、まかり下りてはべりしついでに、ありさま見たまヘに寄りてはべりしかば、京にてこそところえぬやうなりけれ、そこら遥かにいかめしう占めて造れるさま、さはいヘど、国の司にてしおきけることなれば、残りの齢ゆたかに経べき心がまヘも、二なくしたりけり。 [わかむらさき][277] 後の世の勤めもいとよくして、なかなか法師まさりしたる人になんはべりける」と申せば、「さてそのむすめは」と問ひたまふ。 [わかむらさき][283] いみじう忍びたまひければ、知りはべらで、ここにはべりながら、御とぶらひにもまでざりける」とのたまヘば、「あないみじや。 [わかむらさき][284] 「過きりおはしましけるよし、ただ今なむ人申すに、驚きながら、さぶらふべきを、なにがしこの寺に籠りはべりとはしろしめしながら忍びさせたまへるを、愁はしく思ひたまヘてなん。 [わかむらさき][284] 「去ぬる十余日のほどより、瘧病にわづらひはべるを、たび重なりてたヘがたくはべれば、人の教ヘのままに、にはかに尋ね入りはべりつれど、かやうなる人の、しるしあらはさぬ時、はしたなかるべきも、ただなるよりはいとほしう思ひたまへつつみてなむ、いたう忍びはべりつる。 [わかむらさき][286] 故按察大納言は、世になくて久しくなりはべりぬれば、えしろしめさじかし。 [わかむらさき][287] すきずきしき方にはあらで、まめやかに聞こゆるなり」と、推しあてにのたまへば、「むすめただ一人はべりし。 [わかむらさき][287] 亡せてこの十余年にやなりはべりぬらん。 [わかむらさき][287] 故大納言、内裏に奉らむなど、かしこういつきはべりしを、その本意のごとくもものしはべらで、過ぎはべりにしかば、ただこの尼君ひとりもてあつかひはべりしほどに、いかなる人のしわざにか、兵部卿宮なむ、忍びて語らひつきたまへりけるを、もとの北の方、やむごとなくなどして、安からぬこと多くて、明け暮れものを思ひてなん、亡くなりはべりにし。 [わかむらさき][288] それはとどめたまふ形見もなきか」と、幼かりつる行く方の、なほたしかに知らまほしくて、問ひたまへば、「亡くなりはべりしほどにこそはべりしか。 [わかむらさき][288] 思ふ心ありて、行きかかづらふ方もはべりながら、世に心のしまぬにやあらん、独り住みにてのみなむ。 [わかむらさき][289] かの祖母に語らひはべりて聞こえさせむ」と、すくよかに言ひて、ものごはきさましたまへれば、若き御心に恥づかしくて、えよくも聞こえたまはず。 [わかむらさき][292] 言ふかひなきほどの齢にて、睦ましかるべき人にも立ちおくれはべりにければ、あやしう浮きたるやうにて、年月をこそ重ねはべれ。 [わかむらさき][292] 同じさまにものしたまふなるを、たぐひになさせたまへ、といと聞こえまほしきを、かかるをりはべりがたくてなむ、思されんところをも憚らず、うち出ではべりぬる」と聞こえたまへば、「いとうれしう思ひたまへぬべき御ことながらも、聞こしめしひがめたることなどやはべらん、とつつましうなむ。 [わかむらさき][293] あやしき身ひとつを、頼もし人にする人なむはべれど、いとまだ言ふかひなきほどにて、御覧じゆるさるる方もはべりがたげなれば、えなむうけたまはりとどめられざりける」とのたまふ。 [わかむらさき][293] 僧都おはしぬれば、「よし、かう聞こえそめはべりぬれば、いと頼もしうなむ」とて、おし立てたまひつ。 [わかむらさき][293] 吹き迷ふ深山おろしに夢さめて涙もよほす滝の音かな「さしぐみに袖ぬらしける山水にすめる心は騒ぎやはする耳馴れはべりにけりや」と聞こえたまふ。 [わかむらさき][294] 「今年ばかりの誓ひ深うはべりて、御送りにもえ参りはべるまじきこと。 [わかむらさき][295] 「山水に心とまりはべりぬれど、内裏よりおぼつかながらせたまへるもかしこければなむ。 [わかむらさき][300] たへがたうわづらひはべりしをも、いかがとだに問ひたまはぬこそ、めづらしからぬことなれど、なほうらめしう」と聞こえたまふ。 [わかむらさき][310] 例の御供に離れぬ惟光なむ、「故按察大納言の家にはべりて、もののたよりにとぶらひてはべりしかば、かの尼上、いたう弱りたまひにたれば、何ごともおぼえず、となむ申してはべりし」と聞こゆれば、「あはれのことや。 [わかむらさき][311] げにかかる所は、例に違ひて思さる、「常に思ひたまへたちながら、かひなきさまにのみもてなさせたまふに、つつまれはべりてなむ。 [わかむらさき][311] 「乱り心地は、いつともなくのみはべるが、限りのさまになりはべりて、いとかたじけなく立ち寄らせたまへるに、みづから聞こえさせぬこと。 [わかむらさき][311] のたまはすることの筋、たまさかにも思しめしかはらぬやうはべらば、かくわりなき齢過ぎはべりて、かならずかずまへさせたまへ。 [わかむらさき][316] 「宮に渡したてまつらむとはべるめるを、故姫君のいと情なく、うきものに思ひきこえたまへりしに、いとむげに児ならぬ齢の、またはかばかしう人のおもむけをも見知りたまはず、中空なる御ほどにて、あまたものしたまふなる中の、あなづらはしき人にてや交りたまはんなど、過ぎたまひぬるも、世とともに思し嘆きつること、しるきこと多くはべるに、かくかたじけなきなげの御言の葉は、後の御心もたどりきこえさせず、いとうれしう思ひたまへられぬべきをりふしにはべりながら、すこしもなぞらひなるさまにもものしたまはず、御年よりも若びてならひたまへれば、いとかたはらいたくはべる」と聞こゆ。 [わかむらさき][325] 今日も宮渡らせたまひて、『うしろやすく仕うまつれ、心幼くもてなしきこゆな』と、のたまはせつるも、いとわづらはしう、ただなるよりは、かかる御すき事も思ひ出でられはべりつる」など言ひて、この人も事あり顔にや思はむ、など、あいなければ、いたう嘆かしげにも言ひなさず。 [わかむらさき][329] おのづから、ほど経てさるべきにおはしまさば、ともかうもはべりなむを、いと思ひやりなきほどのことにはべれば、さぶらふ人々苦しうはべるべし」と聞こゆれば、「よし、後にも人は参りなむ」とて、御車寄せさせたまへば、あさましう、いかさまに、と思ひあへり。 検索結果 「本文」の中の「はべり」 かつ、 「巻名」の中の「すゑつむ花」を検索しました。 全部で 3 件です。 [すゑつむ花][342] よきをりかなと思ひて、「御琴の音いかにまさりはべらむ、と思ひたまへらるる夜の気色にさそはれはべりてなむ。 [すゑつむ花][343] まらうとの来むとはべりつる。 [すゑつむ花][355] 「簀子などは便なうはべりなむ。 検索結果 「本文」の中の「はべり」 かつ、 「巻名」の中の「もみぢの賀」を検索しました。 全部で 5 件です。 [もみぢの賀][384] いかが見たまひつる」と聞こえたまへば、あいなう、御答へ聞こえにくくて、「ことにはべりつ」とばかり聞こえたまふ。 [もみぢの賀][393] 「儺やらふとて、犬君がこれをこぼちはべりにければ、つくろひはべるぞ」とて、いと大事と思いたり。 [もみぢの賀][396] 「これは、内宴などいふこともはべるなるを、さやうのをりにこそ」など聞こえたまへば、「それはまされるもはべり。 [もみぢの賀][402] 「よそへつつ見るに心は慰まで露けさまさるなでしこの花花に咲かなんと思ひたまへしも、かひなき世にはべりければ」とあり。 [もみぢの賀][404] 大殿油まゐりて、絵どもなど御覧ずるに、出でたまふべし、とありつれば、人々声づくりきこえて、「雨降りはべりぬべし」など言ふに、姫君、例の、心細くて屈したまへり。 検索結果 「本文」の中の「はべり」 かつ、 「巻名」の中の「あふひ」を検索しました。 全部で 8 件です。 [あふひ][46] 斎宮の御浄まはりもわづらはしくやなど、久しう思ひわづらひたまへど、わざとある御返りなくは情なくやとて、紫のにばめる紙に、「こよなうほど経はべりにけるを、思ひたまへ怠らずながら、つつましきほどは、さらば思し知るらむとてなむ。 [あふひ][55] あからさまに立ち出ではべるにつけても、今日までながらへはべりにけるよ、と乱り心地のみ動きてなむ、聞こえさせむもなかなかにはべるべければ、そなたにも参りはべらぬ。 [あふひ][57] うちとけおはしますことははべらざりつれど、さりともつひにはと、あいな頼めしはべりつるを。 [あふひ][57] まことに、いかなりとも、とのどかに思ひたまへつるほどは、おのづから御目離るるをりもはべりつらむを、なかなか今は何を頼みにてかは怠りはべらん。 [あふひ][59] 一日二日も見えたまはず、離れ離れにおはせしをだに飽かず胸いたく思ひはべりしを、朝夕の光失ひては、いかでか永らふべからん」と、御声もえ忍びあへたまはず泣いたまふに、御前なるおとなおとなしき人など、いと悲しくて、さとうち泣きたる、そぞろ寒き夕のけしきなり。 [あふひ][60] 「常なき世はおほかたにも思うたまへ知りにしを、目に近く見はべりつるに、厭はしきこと多く、思ひたまへ乱れしも、たびたびの御消息に慰めはべりてなむ今日までも」とて、さらぬをりだにある御気色とり添へて、いと心苦しげなり。 [あふひ][71] 宮の御消息にて、「今日はいみじく思ひたまへ忍ぶるを、かく渡らせたまへるになむ、なかなか」など聞こえたまひて、「昔にならひはべりにける御装ひも、月ごろはいとど涙に霧りふたがりて、色あひなく御覧ぜられはべらむ、と思ひたまふれど、今日ばかりはなほやつれさせたまへ」とて、いみじくし尽くしたまへるものども、また重ねて奉れたまへり。 [あふひ][72] 御返りには、「春や来ぬる、ともまづ御覧ぜられになん参りはべりつれど、思ひたまへ出でらるること多くて、え聞こえさせはべらず、あまた年けふあらためし色ごろもきては涙ぞふる心地するえこそ思ひたまへしづめね」と聞こえたまへり。 検索結果 「本文」の中の「はべり」 かつ、 「巻名」の中の「さか木」を検索しました。 全部で 14 件です。 [さか木][79] いぶせうはべることをもあきらめはべりにしがな」と、まめやかに聞こえたまへば、人々、「げに、いとかたはらいたう、立ちわづらはせたまふに、いとほしう」など、あつかひきこゆれば、「いさや、ここの人目も見苦しう、かの思さむことも若々しう、出でゐんが今さらにつつましきこと」と思すに、いとものうけれど、情なうもてなさむにもたけからねば、とかくうち嘆きやすらひて、ゐざり出でたまへる御けはひ、いと心にくし。 [さか木][79] 「こなたは、簀子ばかりのゆるされははべりや」とて、上りゐたまへり。 [さか木][79] 月ごろのつもりを、つきづきしう聞こえたまはむもまばゆきほどになりにければ、榊をいささか折りて持たまへりけるをさし入れて、「変らぬ色をしるべにてこそ、斎垣も越えはべりにけれ。 [さか木][88] 弱き御心地にも、春宮の御ことを、かへすがへす聞こえさせたまひて、次には大将の御こと、「はべりつる世に変らず、大小のことを隔てず、何ごとも御後見と思せ。 [さか木][104] せめて従ひきこえざらむもかたじけなく、心恥づかしき御けはひなれば、「ただかばかりにても、時ー時いみじき愁へをだにはるけはべりぬべくは、何のおほけなき心もはべらじ」など、たゆめきこえたまふべし。 [さか木][104] 明けはつれば、二人していみじきことどもを聞こえ、宮は、なかばは亡きやうなる御気色の心苦しければ、「世の中にありと聞こしめされむもいと恥づかしければ、やがて亡せはべりなんも、またこの世ならぬ罪となりはべりぬべきこと」など聞こえたまふも、むくつけきまで思し入れり。 [さか木][114] 命婦のもとに、入らせたまひにけるを、めづらしき事とうけたまはるに、宮の間のこと、おぼつかなくなりはべりにければ、静心なく思ひたまへながら、行ひも勤めむなど思ひ立ちはべりし日数を、心ならずやとてなん、日ごろになりはべりにける。 [さか木][116] 院ののたまはせおくことはべりしかば、また後見仕うまつる人もはべらざめるに、春宮の御ゆかり、いとほしう思ひたまへられはべりて」と奏したまふ。 [さか木][118] 「御前にさぶらひて、今までふかしはべりにける」と、聞こえたまふ。 [さか木][118] 「月かげは見し世の秋にかはらぬをへだつる霧のつらくもあるかな霞も人のとか、昔もはべりけることにや」など聞こえたまふ。 [さか木][139] 昔も心ゆるされでありそめにける事なれど、人柄によろづの罪をゆるして、さても見むと言ひはべりしをりは、心もとどめず、めざましげにもてなされにしかば、安からず思ひたまへしかど、さるべきにこそはとて、世にけがれたりとも思し棄つまじきを頼みにて、かく本意のごとく奉りながら、なほその憚りありて、うけばりたる女御なども言はせはべらぬをだに、飽かず口惜しう思ひたまふるに、またかかる事さへはべりければ、さらにいと心うくなむ思ひなりはべりぬる。 [さか木][140] 斎院をもなほ聞こえ犯しつつ、忍びに御文通はしなどして、けしきあることなど、人の語りはべりしをも、世のためのみにもあらず、わがためもよかるまじきことなれば、よもさる思ひやりなきわざし出でられじとなむ、時の有幟と天の下をなびかしたまへるさまことなめれば、大将の御心を疑ひはべらざりつる」などのたまふに、宮はいとどしき御心なれば、いとものしき御気色にて、「帝と聞こゆれど、昔より皆人思ひおとしきこえて、致仕の大臣も、またなくかしづく一つ女を、兄の坊にておはするには奉らで、弟の源氏にていときなきが元服の添臥にとりわき、またこの君をも宮仕にと心ざしてはべりしに、をこがましかりしありさまなりしを、誰も誰もあやしとやは思したりし。 [さか木][140] みなかの御方にこそ御心寄せはべるめりしを、その本意違ふさまにてこそは、かくてもさぶらひたまふめれど、いとほしさに、いかでさる方にても、人に劣らぬさまにもてなしきこえん、さばかりねたげなりし人の見るところもあり、などこそは思ひはべりつれど、忍びてわが心の入る方に、なびきたまふにこそははべらめ。 [さか木][141] かくのごと罪はべりとも、思し棄つまじきを頼みにて、あまえてはべるなるべし。 検索結果 「本文」の中の「はべり」 かつ、 「巻名」の中の「すま」を検索しました。 全部で 12 件です。 [すま][158] 「過ぎはべりにし人を、世に思うたまへ忘るる世なくのみ、今に悲しびはべるを、この御事になむ、もしはべる世ならましかば、いかやうに思ひ嘆きはべらまし、よくぞ短くて、かかる夢を見ずなりにけると、思ひたまへ慰めはべり。 [すま][158] なほさるべきにて、他の朝廷にもかかるたぐひ多うはべりけり。 [すま][159] されど、言ひ出づるふしありてこそ、さる事もはべりけれ。 [すま][161] いぎたなき人は、見たまへむにつけても、なかなかうき世のがれ難う思うたまへられぬべければ、心強う思ひたまへなして、急ぎまかではべり」と聞こえたまふ。 [すま][169] 「とはせたまはぬもことわりに思ひたまへながら、今はと世を思ひはつるほどのうさもつらさも、たぐひなきことにこそはべりけれ。 [すま][169] 逢ふ瀬なきなみだの川に沈みしや流るるみをのはじめなりけむと思ひたまへ出づるのみなむ、罪のがれがたうはべりける」。 [すま][175] 御前には啓しはべりぬ。 [すま][194] 「夜更けはべりぬ」と聞こゆれど、なほ入りたまはず。 [すま][196] 「いと遥かなるほどよりまかり上りては、まづいつしかさぶらひて、都の御物語もとこそ思ひたまへはべりつれ、思ひの外にかくておはしましける御宿を、まかり過ぎはべる、かたじけなう悲しうもはべるかな。 [すま][196] あひ知りてはべる人々、さるべきこれかれまで、来向ひてあまたはべれば、ところせさを思ひたまへ憚りはべる事どもはべりて、えさぶらはぬこと。 [すま][208] さりともかくてやは」と申したまふに、主、「雲ちかく飛びかふ鶴もそらに見よわれは春日のくもりなき身ぞかつは頼まれながら、かくなりぬる人は、昔の賢き人だに、はかばかしう世にまたまじらふこと難くはべりければ、何か。 [すま][208] 宰相、「たづがなき雲ゐにひとりねをぞ泣くつばさ並べし友を恋ひつつかたじけなく馴れきこえはべりて、いとしも、と悔しう思ひたまへらるるをり多く」など、しめやかにもあらで帰りたまひぬるなごり、いとど悲しうながめ暮らしたまふ。 検索結果 「本文」の中の「はべり」 かつ、 「巻名」の中の「あかし」を検索しました。 全部で 20 件です。 [あかし][214] 「京にも、この雨風、いとあやしき物のさとしなりとて、仁王会など行はるべしとなむ聞こえはべりし。 [あかし][219] いとうれしくて、「かしこき御影に別れたてまつりにしこなた、さまざま悲しき事のみ多くはべれば、今はこの渚に身をや棄てはべりなまし」と聞こえたまへば、「いとあるまじきこと。 [あかし][221] 良清驚きて、「入道はかの国の得意にて、年ごろあひ語らひはべれど、私にいささかあひ恨むる事はべりて、ことなる消息をだに通はさで、久しうなりはべりぬるを、浪のまぎれに、いかなることかあらむ」とおぼめく。 [あかし][221] 「去ぬる朔日の夢に、さまことなる物の告げ知らすることはべりしかば、信じがたきことと思うたまへしかど、『十三日にあらたなるしるし見せむ。 [あかし][222] 舟よそひ設けて、必ず、雨風止まばこの浦にを寄せよ』と、かねて示すことのはべりしかば、こころみに舟のよそひを設けて待ちはべりしに、いかめしき雨風、雷のおどろかしはべりつれば、他の朝廷にも、夢を信じて国を助くるたぐひ多うはべりけるを、用ゐさせたまはぬまでも、このいましめの日を過ぐさず、このよしを告げ申しはべらんとて、舟出だしはべりつるに、あやしき風細う吹きて、この浦に着きはべること、まことに神のしるべ違はずなん。 [あかし][222] ここにも、もし知ろしめすことやはべりつらんとてなむ。 [あかし][223] かの浦に静やかに隠ろふべき隈はべりなんや」とのたまふ。 [あかし][230] 「さらに、背きにし世の中もとり返し思ひ出でぬべくはべり。 [あかし][232] なにがし、延喜の御手より弾き伝へたること三代になんなりはべりぬるを、かうつたなき身にて、この世のことは棄て忘れはべりぬるを、ものの切にいぶせきをりをりは、掻き鳴らしはべりしを、あやしうまねぶ者のはべるこそ、自然にかの前大王の御手に通ひてはべれ。 [あかし][233] 商人の中にてだにこそ、古ごと聞きはやす人ははべりけれ。 [あかし][233] 琵琶なむ、まことの音を弾きしづむる人いにしへも難うはべりしを、をさをさとどこほることなう、なつかしき手など筋ことになん。 [あかし][233] 荒き浪の声にまじるは、悲しくも思うたまへられながら、かき集むるもの嘆かしさ、紛るるをりをりもはべり」など、すきゐたれば、をかしと思して、箏の琴とりかへて賜はせたり。 [あかし][235] そのゆゑは、住吉の神を頼みはじめたてまつりて、この十八年になりはべりぬ。 [あかし][235] 女の童のいときなうはべりしより、思ふ心はべりて、年ごとの春秋ごとに必ずかの御社に参ることなむはべる。 [あかし][235] 前の世の契りつたなくてこそかく口惜しき山がつとなりはべりけめ、親、大臣の位をたもちたまへりき。 [あかし][235] みづからかく田舎の民となりにてはべり。 [あかし][235] 『命の限りはせばき衣にもはぐくみはべりなむ。 [あかし][236] かくながら見捨てはべりなば、浪の中にもまじり失せね』となん掟てはべる」など、すべてまねぶべくもあらぬ事どもを、うち泣きうち泣き聞こゆ。 [あかし][249] かかる方のことをば、さすがに心とどめて恨みたまへりしをりをり、などてあやなきすさび事につけても、さ思はれたてまつりけむなど、とり返さまほしう、人のありさまを見たまふにつけても、恋しさの慰む方なければ、例よりも御文こまやかに書きたまひて、奥に、「まことや、我ながら心より外なるなほざりごとにて、疎まれたてまつりしふしぶしを、思ひ出づるさへ胸いたきに、またあやしうものはかなき夢をこそ見はべりしか。 [あかし][258] 入道、「今はと世を離れはべりにし身なれども、今日の御送りに仕うまつらぬこと」など申して、かひをつくるもいとほしながら、若き人は笑ひぬべし。 検索結果 「本文」の中の「はべり」 かつ、 「巻名」の中の「みをつくし」を検索しました。 全部で 4 件です。 [みをつくし][301] うき身をつみはべるにも、女は思ひの外にてもの思ひを添ふるものになむはべりければ、いかでさる方をもて離れて見たてまつらむと思うたまふる」など聞こえたまへば、あいなくものたまふかな、と思せど、「年ごろによろづ思うたまへ知りにたるものを、昔のすき心のなごりあり顔にのたまひなすも本意なくなむ。 [みをつくし][302] 「いと苦しさまさりはべり。 [みをつくし][309] 「かうかうの事をなむ思うたまへわづらふに、母御息所いと重々しく心深きさまにものしはべりしを、あぢきなきすき心にまかせて、さるまじき名をも流し、うきものに思ひおかれはべりにしをなん、世にいとほしく思ひたまふる。 [みをつくし][309] この世にて、その恨みの心とけず過ぎはべりにしを、いまはとなりての際に、この斎宮の御ことをなむものせられしかば、さも聞きおき、心にも残すまじうこそは、さすがに見おきたまひけめ、と思ひたまふるにも、忍びがたう。 検索結果 「本文」の中の「はべり」 かつ、 「巻名」の中の「よもぎふ」を検索しました。 全部で 9 件です。 [よもぎふ][324] この君をなほもいざなはむの心深くて、「遥かにかくまかりなむとするに、心細き御ありさまの、常にしもとぶらひきこえねど、近き頼みはべりつるほどこそあれ、いとあはれにうしろめたなくなむ」など言よがるを、さらに承け引きたまはねば、「あな憎。 [よもぎふ][327] 権大納言殿の御八講に参りてはべりつるなり。 [よもぎふ][329] 及びなく見たてまつりし御ありさまのいと悲しく心苦しきを、近きほどは怠るをりものどかに頼もしくなむはべりけるを、かく遥かにまかりなむとすれば、うしろめたくあはれになむおぼえたまふ」など語らへど、心とけても答へたまはず。 [よもぎふ][332] 年ごろの忍びがたき世のうさを過ぐしはべりつるに、かくおぼえぬ道にいざなはれて、遙かにまかりあくがるること」とて、「玉かづら絶えてもやまじ行く道のたむけの神もかけてちかはむ命こそ知りはべらね」など言ふに、「いづら、暗うなりぬ」とつぶやかれて、心もそらにてひき出づれば、かへり見のみせられける。 [よもぎふ][334] 召し寄せて、「ここは常陸の宮ぞかしな」「しかはべり」と聞こゆ。 [よもぎふ][337] うしろやすくを」と言へば、女どもうち笑ひて、「変らせたまふ御ありさまならば、かかる浅茅が原をうつろひたまはでははべりなんや。 [よもぎふ][337] 昔の跡も見えぬ蓬のしげさかな」とのたまへば、「しかじかなむたどり寄りてはべりつる。 [よもぎふ][337] 侍従がをばの少将といひはべりし老人なん、変らぬ声にてはべりつる」と、ありさま聞こゆ。 [よもぎふ][340] 「かかる草隠れに過ぐしたまひける年月のあはれもおろかならず、また変らぬ心ならひに、人の御心の中もたどり知らずながら、分け入りはべりつる露けさなどをいかが思す。 検索結果 「本文」の中の「はべり」 かつ、 「巻名」の中の「ゑあはせ」を検索しました。 全部で 2 件です。 [ゑあはせ][378] 夜明け方近くなるほどに、ものいとあはれに思されて、御土器などまゐるついでに、昔の御物語ども出で来て、「いはけなきほどより、学問に心を入れてはべりしに、すこしも才などつきぬべくや御覧じけむ、院ののたまはせしやう、才学といふもの、世にいと重くするものなればにやあらむ、いたう進みぬる人の、命幸ひと並びぬるは、いと難きものになん。 [ゑあはせ][379] 絵描くことのみなむ、あやしく、はかなきものから、いかにしてかは心ゆくばかり描きてみるべきと思ふをりをりはべりしを、おぼえぬ山がつになりて、四方の海の深き心を見しに、さらに思ひ寄らぬ隈なくいたられにしかど、筆のゆく限りありて、心よりは事ゆかずなむ思うたまへられしを、ついでなくて御覧ぜさすべきならねば、かうすきずきしきやうなる、後の聞こえやあらむ」と、親王に申したまへば、「何の才も、心より放ちて習ふべきわざならねど、道々に物の師あり、まねびどころあらむは事の深さ浅さは知らねど、おのづからうつさむに跡ありぬべし。 検索結果 「本文」の中の「はべり」 かつ、 「巻名」の中の「松かぜ」を検索しました。 全部で 12 件です。 [松かぜ][389] 「みづから領ずる所にはべらねど、また知り伝へたまふ人もなければ、かごかなるならひにて、年ごろ隠ろへはべりつるなり。 [松かぜ][390] 御庄の田畠などいふことのいたづらに荒れはべりしかば、故民部大輔の君に申し賜はりて、さるべき物など奉りてなん、領じ作りはべる」など、そのあたりの貯へのことどもをあやふげに思ひて、鬚がちにつなし憎き顔を、鼻などうち赤めつつはちぶき言へば、「さらにその田などやうのことはここに知るまじ。 [松かぜ][391] 「あたりをかしうて、海づらに通ひたる所のさまになむはべりける」と聞こゆれば、さやうの住まひによしなからずはありぬべし、と思す。 [松かぜ][395] 「世の中を棄てはじめしに、かかる他の国に思ひ下りはべりしことども、ただ君の御ためと、思ふやうに明け暮れの御かしづきも心にかなふやうもや、と思ひたまへたちしかど、身のつたなかりける際の思ひ知らるること多かりしかば、さらに都に帰りて、古受領の沈めるたぐひにて、貧しき家の蓬葎、もとのありさまあらたむることもなきものから、公私にをこがましき名を弘めて、親の御亡き影を辱づかしめむことのいみじさになむ、やがて世を棄てつる門出なりけり、と人にも知られにしを、その方につけては、よう思ひ放ちてけり、と思ひはべるに、君のやうやう大人びたまひ、もの思ほし知るべきにそへては、などかう口惜しき世界にて錦を隠しきこゆらんと、心の闇晴れ間なく嘆きわたりはべりしままに、仏神を頼みきこえて、さりともかうつたなき身にひかれて、山がつの庵にはまじりたまはじ、と思ふ心ひとつを頼みはべりしに、思ひよりがたくてうれしきことどもを見たてまつりそめても、なかなか身のほどを、とざまかうざまに悲しう嘆きはべりつれど、若君の、かう出でおはしましたる御宿世の頼もしさに、かかる渚に月日を過ぐしたまはむもいとかたじけなう、契りことにおぼえたまへば、見たてまつらざらむ心まどひはしづめがたけれど、この身は長く世を棄てし心はべり、君たちは世を照らしたまふべき光しるければ、しばしかかる山がつの心を乱りたまふばかりの御契りこそはありけめ、天に生まるる人の、あやしき三つの途に帰るらむ一時に思ひなづらへて、今日長く別れたてまつりぬ。 [松かぜ][395] 避らぬ別れに御心動かしたまふな」と言ひ放つものから、「煙ともならむ夕まで、若君の御ことをなむ、六時の勤めにもなほ心きたなくうちまぜはべりぬべき」とて、これにぞうちひそみぬる。 [松かぜ][399] 嵯峨野の御堂にも、飾なき仏の御とぶらひすべければ、二三日ははべりなん」と聞こえたまふ。 [松かぜ][403] 「棄てはべりし世を、いまさらにたち帰り、思ひたまへ乱るるを、推しはからせたまひければ、命長さのしるしも思ひたまへ知られぬる」とうち泣きて、「荒磯蔭に心苦しう思ひきこえさせはべりし二葉の松も、今は頼もしき御生ひ先、と祝ひきこえさするを、浅き根ざしゆゑやいかが、とかたがた心尽くされはべる」など聞こゆるけはひよしなからねば、昔物語に、親王の住みたまひけるありさまなど語らせたまふに、繕はれたる水の音なひかごとがましう聞こゆ。 [松かぜ][407] 浦風おぼえはべりつる暁の寝覚にも、おどろかしきこえさすべきよすがだになくて」と気色ばむを、「八重たつ山は、さらに島がくれにも劣らざりけるを、松も昔の、とたどられつるに、忘れぬ人もものしたまひけるに頼もし」など言ふ。 [松かぜ][408] 「よべの月に、口惜しう御供に後れはべりにけると思ひたまへられしかば、今朝、霧を分けて参りはべりつる。 [松かぜ][408] 山の錦はまだしうはべりけり。 [松かぜ][408] 野辺の色こそ盛りにはべりけれ。 [松かぜ][408] なにがしの朝臣の、小鷹にかかづらひて立ち後れはべりぬる、いかがなりぬらむ」など言ふ。 検索結果 「本文」の中の「はべり」 かつ、 「巻名」の中の「うす雲」を検索しました。 全部で 22 件です。 [うす雲][434] 参りて、心のどかに昔の御物語もなど思ひたまへながら、うつしざまなるをり少なくはべりて、口惜しくいぶせくて過ぎはべりぬること」と、いと弱げに聞こえたまふ。 [うす雲][434] つつしませたまふべき御年なるに、晴れ晴れしからで月ごろ過ぎさせたまふことをだに嘆きわたりはべりつるに、御つつしみなどをも常よりことにせさせたまはざりけることと、いみじう思しめしたり。 [うす雲][436] 「院の御遺言にかなひて、内裏の御後見仕うまつりたまふこと、年ごろ思ひ知りはべること多かれど、何につけてかはその心寄せことなるさまをも漏らしきこえむとのみ、のどかに思ひはべりけるを、いまなむあはれに口惜しく」とほのかにのたまはするも、ほのぼの聞こゆるに、御答へも聞こえやりたまはず泣きたまふさま、いといみじ。 [うす雲][437] 「はかばかしからぬ身ながらも、昔より御後見仕うまつるべきことを、心のいたる限りおろかならず思ひたまふるに、太政大臣の隠れたまひぬるをだに、世の中心あわたたしく思ひたまへらるるに、またかくおはしませば、よろづに心乱れはべりて、世にはべらむことも残りなき心地なむしはべる」と聞こえたまふほどに、燈火などの消え入るやうにてはてたまひぬれば、いふかひなく悲しきことを思し嘆く。 [うす雲][440] このごろは、なほもとのごとく参りさぶらはるべきよし、大臣もすすめのたまへば、「今は夜居などいとたへがたうおぼえはべれど、仰せ言のかしこきにより、古き心ざしを添へて」とてさぶらふに、静かなる暁に、人も近くさぶらはず、あるはまかでなどしぬるほどに、古代にうちしはぶきつつ世の中の事ども奏したまふついでに、「いと奏しがたく、かへりては罪にもやまかり当らむと思ひたまへ憚る方多かれど、知ろしめさぬに罪重くて、天の眼恐ろしく思ひたまへらるることを、心にむせびはべりつつ命終りはべりなば、何の益かははべらむ。 [うす雲][440] さらに仏のいさめ守りたまふ真言の深き道をだに、隠しとどむることなく弘め仕うまつりはべり。 [うす雲][441] かかる老法師の身には、たとひ愁へはべりとも何の悔かはべらむ。 [うす雲][441] わが君孕まれおはしましたりし時より、故宮の深く思し嘆くことありて、御祈祷仕うまつらせたまふゆゑなむはべりし。 [うす雲][441] 事の違ひ目ありて、大臣横さまの罪に当りたまひし時、いよいよ怖ぢ思しめして、重ねて御祈祷ども承りはべりしを、大臣も聞こしめしてなむ、またさらに事加へ仰せられて、御位に即きおはしまししまで仕うまつる事どもはべりし。 [うす雲][442] いときなく、ものの心知ろしめすまじかりつるほどこそはべりつれ、やうやう御齢足りおはしまして、何ごともわきまへさせたまふべき時にいたりて、咎をも示すなり。 [うす雲][442] 何の罪とも知ろしめさぬが恐ろしきにより、思ひたまへ消ちてし事を、さらに心より出だしはべりぬること」と、泣く泣く聞こゆるほどに明けはてぬればまかでぬ。 [うす雲][444] さかしき世にしもなむ、よからぬ事どももはべりける。 [うす雲][444] 聖の帝の世にも、横さまの乱れ出で来ること、唐土にもはべりける。 [うす雲][447] ただ、もとの御掟てのままに、朝廷に仕うまつりて、いますこしの齢重なりはべりなば、のどかなる行ひに籠りはべりなむと思ひたまふる」と、常の御言の葉に変らず奏したまへば、いと口惜しうなむ思しける。 [うす雲][449] 「前栽どもこそ残りなく紐ときはべりにけれ。 [うす雲][449] 「過ぎにし方、ことに思ひ悩むべき事もなくてはべりぬべかりし世の中にも、なほ心から、すきずきしきことにつけて、もの思ひの絶えずもはべりけるかな。 [うす雲][450] さるまじきことどもの心苦しきがあまたはべりし中に、つひに心もとけずむすぼほれてやみぬること、二つなむはべる。 [うす雲][450] 源氏「中ごろ、身のなきに沈みはべりしほど、かたがたに思ひたまへしことは、片はしづつかなひにたり。 [うす雲][450] 東の院にものする人の、そこはかとなくて心苦しうおぼえわたりはべりしも、おだしう思ひなりにてはべり。 [うす雲][451] 「今は、いかでのどやかに、生ける世の限り、思ふこと残さず、後の世の勤めも心にまかせて籠りゐなむと思ひはべるを、この世の思ひ出にしつべきふしのはべらぬこそ、さすがに口惜しうはべりぬべけれ、数ならぬ幼き人のはべる、生ひ先いと待ち遠なりや。 [うす雲][452] 「はかばかしき方の望みはさるものにて、年の内ゆきかはる時々の花紅葉、空のけしきにつけても、心のゆくこともしはべりにしがな。 [うす雲][452] 春の花の林、秋の野の盛りを、とりどりに人あらそひはべりける、そのころのげにと心寄るばかりあらはなる定めこそはべらざなれ。 検索結果 「本文」の中の「はべり」 かつ、 「巻名」の中の「あさがほ」を検索しました。 全部で 9 件です。 [あさがほ][460] 「院の上崩れたまひて後、よろづ心細くおぼえはべりつるに、年のつもるままに、いと涙がちにて過ぐしはべるを、この宮さへかくうち棄てたまへれば、いよいよあるかなきかにとまりはべるを、かく立ち寄り訪はせたまふになむ、もの忘れしぬべくはべる」と聞こえたまふ。 [あさがほ][461] おぼえぬ罪に当りはべりて、知らぬ世にまどひはべりしを、たまたま朝廷に数まへられたてまつりては、またとり乱り暇なくなどして、年ごろも、参りていにしへの御物語をだに聞こえ承らぬを、いぶせく思ひたまへわたりつつなむ」など聞こえたまふを、「いともいともあさましく、いづ方につけても定めなき世を、同じさまにて見たまへすぐす、命長さの恨めしきこと多くはべれど、かくて世にたち返りたまへる御よろこびになむ、ありし年ごろを見たてまつりさしてましかば、口惜しからまし、とおぼえはべり」と、うちわななきたまひて、「いときよらにねびまさりたまひにけるかな。 [あさがほ][461] 童にものしたまへりしを見たてまつりそめし時、世にかかる光の出でおはしたることと驚かれはべりしを。 [あさがほ][461] 時々見たてまつるごとに、ゆゆしくおぼえはべりてなむ。 [あさがほ][462] 「山がつになりて、いたう思ひくづほれはべりし年ごろの後、こよなく衰へにてはべるものを。 [あさがほ][463] 神さびにける年月の労数へられはべるに、今は内外もゆるさせたまひてむとぞ、頼みはべりける」とて、飽かず思したり。 [あさがほ][464] なべて世にわづらはしき事さへはべりし後、さまざまに思ひたまへ集めしかな。 [あさがほ][465] 「禊を神はいかがはべりけん」など、はかなきことを聞こゆるも、まめやかにはいとかたはらいたし。 [あさがほ][466] 「けざやかなりし御もてなしに、人わろき心地しはべりて、後手も、いとどいかが御覧じけむ、とねたく。 検索結果 「本文」の中の「はべり」 かつ、 「巻名」の中の「をとめ」を検索しました。 全部で 18 件です。 [をとめ][14] 今は、そのやむごとなくえさらぬ筋にてものせられし人さへ亡くなられにしかば、げになどてかは、さやうにておはせましもあしかるまじ、とうちおぼえはべるにも、さらがへりてかくねむごろに聞こえたまふも、さるべきにもあらん、となむ思ひはべる」など、いと古代に聞こえたまふを、心づきなしと思して、「故宮にも、しか心ごはきものに思はれたてまつりて過ぎはべりにしを、いまさらにまた世になびきはべらんも、いとつきなきことになむ」と聞こえたまひて、恥づかしげなる御気色なれば、しひてもえ聞こえおもむけたまはず。 [をとめ][15] 御対面ありて、このこと聞こえたまふに、「ただいま、かうあながちにしも、まだきにおひつかすまじうはべれど、思ふやうはべりて、大学の道にしばし習はさむの本意はべるにより、いま二三年をいたづらの年に思ひなして、おのづから朝廷にも仕うまつりぬべきほどにならば、いま人となりはべりなむ。 [をとめ][15] みづからは、九重の中に生ひ出ではべりて、世の中のありさまも知りはべらず。 [をとめ][15] 夜昼御前にさぶらひて、わづかになむ、はかなき書なども習ひはべりし。 [をとめ][15] ただ、かしこき御手より伝へはべりしだに、何ごとも広き心を知らぬほどは、文の才をまねぶにも、琴笛の調べにも、音たへず及ばぬところの多くなむはべりける。 [をとめ][17] 「学問などして、すこしものの心得はべらば、その恨みはおのづからとけはべりなん」と聞こえたまふ。 [をとめ][18] 「おほし垣下あるじ、はなはだ非常にはべりたうぶ。 [をとめ][23] 殿も、え心強うもてなしたまはず、「人の上にて、かたくななりと見聞きはべりしを、子の大人ぶるに、親の立ちかはり痴れゆくことは、いくばくならぬ齢ながら、かかる世にこそはべりけれ」などのたまひて、おし拭ひたまふを見る御師の心地、うれしく面目あり、と思へり。 [をとめ][29] 「女はただ心ばせよりこそ、世に用ゐらるるものにはべりけれ」など、人の上のたまひ出でて、「女御を、けしうはあらず、何ごとも人に劣りては生ひ出でずかし、と思ひたまへしかど、思はぬ人におされぬる宿世になん、世は思ひの外なるものと思ひはべりぬる。 [をとめ][32] げに、あぢきなき世に、心のゆくわざをしてこそ、過ぐしはべりなまほしけれ」などのたまひて、御土器まゐりたまふに、暗うなれば、御殿油まゐり、御湯漬くだものなど、誰も誰も聞こしめす。 [をとめ][36] よからぬものの上にて、恨めしと思ひきこえさせつべきことの出でまうで来たるを、かうも思うたまへじと、かつは思ひたまふれど、なほしづめがたくおぼえはべりてなん」と、涙おし拭ひたまふに、宮、化粧じたまへる御顔の色違ひて、御目も大きになりぬ。 [をとめ][36] 「いかやうなる事にてか、今さらの齢の末に、心おきては思さるらん」と聞こえたまふも、さすがにいとほしけれど、「頼もしき御蔭に、幼き者を奉りおきて、みづからはなかなか幼くより見たまへもつかず、まづ目に近きがまじらひなどはかばかしからぬを見たまへ嘆き営みつつ、さりとも人となさせたまひてん、と頼みわたりはべりつるに、思はずなることのはべりければ、いと口惜しうなん。 [をとめ][36] ゆかりむつび、ねぢけがましきさまにて、大臣も聞き思すところはべりなん。 [をとめ][37] 見たてまつりしより、心ことに思ひはべりて、そこに思しいたらぬことをも、すぐれたるさまにもてなさむとこそ、人知れず思ひはべれ。 [をとめ][42] 静かなる所に籠りはべりにし後、ともかくも人にまじるをりなければ、恨みたまふべきことはべらじ、となん思ひたまふる」とて、いと恥づかしと思へる気色を、あはれに心苦しうて、「よし、今よりだに用意したまへ」とばかりにて、他事に言ひなしたまうつ。 [をとめ][47] 殿は、「今のほどに内裏に参りはべりて、夕つ方迎へに参りはべらん」とて出でたまひぬ。 [をとめ][68] 「今はかくふりぬる齢に、よろづのこと忘られはべりにけるを、いとかたじけなく渡りおはしまいたるになん、さらに昔の御代のこと思ひ出でられはべる」と、うち泣きたまふ。 [をとめ][68] 「さるべき御蔭どもに後れはべりて後、春のけぢめも思ひたまへ分れぬを、今日なむ慰めはべりぬる。 検索結果 「本文」の中の「はべり」 かつ、 「巻名」の中の「玉かづら」を検索しました。 全部で 11 件です。 [玉かづら][90] 「故少弐のいと情び、きらきらしくものしたまひしを、いかでかあひ語らひ申さむ、と思ひたまへしかども、さる心ざしをも見せきこえずはべりしほどに、いと悲しくて、隠れたまひにしを。 [玉かづら][91] さりとも、すやつばらを、等しなみにはしはべりなむや。 [玉かづら][91] かくのたまふを、いと幸ひありと思ひたまふるを、宿世つたなき人にやはべらむ、思ひ憚ることはべりて、いかでか人に御覧ぜられむと、人知れず嘆きはべるめれば、心苦しう見たまへわづらひぬる」と言ふ。 [玉かづら][92] みな知りてはべり。 [玉かづら][97] この身はいとやすくはべり。 [玉かづら][112] 「まかでて、七日に過ぎはべりぬれど、をかしき事ははべりがたくなむ。 [玉かづら][113] 山踏しはべりて、あはれなる人をなむ見たまへつけたりし」「なに人ぞ」と問ひたまふ。 [玉かづら][115] 昔人もかたへは変らではべりければ、その世の物語し出ではべりて、たへがたく思ひたまへりし」など聞こえゐたり。 [玉かづら][122] 「あはれと思ひし人の、もの倦じしてはかなき山里に隠れゐにけるを、幼き人のありしかば、年ごろも人知れず尋ねはべりしかども、え聞き出ででなむ、女になるまで過ぎにけるを、おぼえぬ方よりなむ聞きつけたる時にだにとて、移ろはしはべるなり」とて、「母も亡くなりにけり。 [玉かづら][125] 今は、ものうひうひしく若びたまふべき御ほどにもあらじを、年ごろの御物語なども、聞こえまほしきに、などかおぼつかなくは」と恨みたまふに、聞こえむこともなく恥づかしければ、「脚立たず沈みそめはべりにける後、何ごともあるかなきかになむ」と、ほのかに聞こえたまふ声ぞ、昔人にいとよくおぼえて若びたりける。 [玉かづら][126] 中将の君にも、「かかる人を尋ね出でたるを、用意して睦びとぶらへ」とのたまひければ、こなたに参うでたまひて、「人数ならずとも、かかる者さぶらふと、まづ召し寄すべくなむはべりける。 検索結果 「本文」の中の「はべり」 かつ、 「巻名」の中の「はつね」を検索しました。 全部で 3 件です。 [はつね][148] 見わづらひたまひて、「御衣どものことなど、後見きこゆる人ははべりや。 [はつね][148] うはべばかりつくろひたる御装ひはあいなくなむ」と聞こえたまへば、こちごちしくさすがに笑ひたまひて、「醍醐の阿闍梨の君の御あつかひしはべりとて、衣どももえ縫ひはべらでなむ。 [はつね][150] 尼君も、ものあはれなるけはひにて、「かかる方に頼みきこえさするしもなむ、浅くはあらず思ひたまへ知られはべりける」と聞こゆ。 検索結果 「本文」の中の「はべり」 かつ、 「巻名」の中の「こてふ」を検索しました。 全部で 3 件です。 [こてふ][162] 御土器のついでに、いみじうもて悩みたまうて、「思ふ心はべらずは、まかり逃げはべりなまし。 [こてふ][171] 内の大殿の中将の、このさぶらふみるこをぞ、もとより見知りたまへりける伝へにてはべりける。 [こてふ][174] いと若々しきもうたておぼえて、「何ごとも思ひ知りはべらざりけるほどより、親などは見ぬものにならひはべりて、ともかくも思うたまへられずなむ」と、聞こえたまふさまのいとおいらかなれば、げにと思いて、「さらば世の譬の、後の親をそれと思いて、おろかならぬ心ざしのほども、見あらはしはてたまひてむや」など、うち語らひたまふ。 検索結果 「本文」の中の「はべり」 かつ、 「巻名」の中の「とこなつ」を検索しました。 全部で 9 件です。 [とこなつ][217] この春のころほひ、夢語したまひけるを、ほの聞き伝へはべりける女の、我なむかこつべきことあると、名のり出ではべりけるを、中将の朝臣なむ聞きつけて、まことにさやうに触ればひぬべき証やあると、尋ねとぶらひはべりける。 [とこなつ][217] かやうのことこそ、人のため、おのづから家損なるわざにはべりけれ」と聞こゆ。 [とこなつ][220] まじりものなく、きらきらしかめる中に、大君だつ筋にて、かたくななりとにや」とのたまへば、「来まさばといふ人もはべりけるを」と聞こえたまふ。 [とこなつ][222] ただはかなき同じすが掻きの音に、よろづのものの音籠り通ひて、いふ方もなくこそ響きのぼれ」と語りたまへば、ほのぼの心えて、いかでと思すことなれば、いとどいぶかしくて、「このわたりにてさりぬべき御遊びのをりなどに、聞きはべりなんや。 [とこなつ][232] 思ふさまはべり」など、いとらうたしと思ひつつ聞こえたまふ。 [とこなつ][233] 中将などのいと二なく思ひはべりけんかね言にたらずといふばかりにこそははべらめ。 [とこなつ][236] 幼くはべりし時だに、故母の常に苦しがり教へはべりし。 [とこなつ][236] 妙法寺の別当大徳の産屋にはべりける、あえものとなん嘆きはべりたうびし。 [とこなつ][242] まことにみづからのにもこそ言ひなせ」と、かたはらいたげに思したれど、「それは聞かむ人わきまへはべりなむ」とて、おしつつみて出だしつ。 検索結果 「本文」の中の「はべり」 かつ、 「巻名」の中の「みゆき」を検索しました。 全部で 13 件です。 [みゆき][289] 内裏などにも、ことなるついでなきかぎりは参らず、朝廷に仕ふる人ともなくて籠りはべれば、よろづうひうひしう、よだけくなりにてはべり。 [みゆき][290] さべき人々にもたち後れ、世の末に残りとまれるたぐひを、人の上にて、いと心づきなしと見はべりしかば、出立いそぎをなむ、思ひもよほされはべるに、この中将の、いとあはれにあやしきまで思ひあつかひ、心を騒がいたまふ見はべるになむ、さまざまにかけとめられて、今まで長びきはべる」と、ただ泣きに泣きて、御声のわななくも、をこがましけれど、さる事どもなればいとあはれなり。 [みゆき][291] 中将の恨めしげに思はれたる事もはべるを、『はじめのことは知らねど、今はげに聞きにくくもてなすにつけて、立ちそめにし名の取り返さるるものにもあらず、をこがましきやうに、かへりては世人も言ひ漏らすなるを』などものしはべれど、立てたるところ昔よりいと解けがたき人の本性にて、心得ずなん見たまふる」と、この中将の御ことと思してのたまへば、うち笑ひたまひて、「言ふかひなきにゆるし棄てたまふこともやと聞きはべりて、ここにさへなむかすめ申すやうありしかど、いと厳しう諫めたまふよしを見はべりし後、何にさまで言をもまぜはべりけむと、人わるう悔い思うたまへてなむ。 [みゆき][292] いとほしう聞きたまふる」など申したまうて、「さるは、かの知りたまふべき人をなむ、思ひまがふることはべりて、不意に尋ねとりてはべるを、そのをりは、さるひがわざとも明かしはべらずありしかば、あながちに事の心を尋ねかへさふこともはべらで、たださるもののくさの少なきを、かごとにても何かは、と思うたまへゆるして、をさをさ睦びも見はべらずして、年月はべりつるを、いかでか聞こしめしけむ、内裏に仰せらるるやうなむある。 [みゆき][293] ただわが身のありさまからこそ、よろづの事はべめれ、と思ひよわりはべりしついでになむ、齢のほどなど問ひ聞きはべれば、かの御尋ねあべいことになむありけるを、いかなべいことぞとも申しあきらめまほしうはべる。 [みゆき][294] 宮、「いかに、いかにはべりけることにか。 [みゆき][299] 何ともなくてつもりはべる年齢にそへて、いにしへの事なん恋しかりけるを、対面賜はることもいとまれにのみはべれば、事限りありて、よだけき御ふるまひとは思ひたまへながら、親しきほどには、その御勢をもひきしじめたまひてこそは、とぶらひものしたまはめとなむ、恨めしきをりをりはべる」と聞こえたまへば、「いにしへはげに面馴れて、あやしくたいだいしきまで馴れさぶらひ、心に隔つることなく御覧ぜられしを、朝廷に仕うまつりし際は、羽翼を並べたる数にも思ひはべらで、うれしき御かへりみをこそ、はかばかしからぬ身にてかかる位に及びはべりて、朝廷に仕うまつりはべることにそへても、思うたまへ知らぬにははべらぬを、齢のつもりには、げにおのづからうちゆるぶことのみなむ、多くはべりける」など、かしこまり申したまふ。 [みゆき][300] 大臣、「いとあはれに、めづらかなる事にもはべるかな」と、まづうち泣きたまひて、「その上より、いかになりにけむ、と尋ね思うたまへしさまは、何のついでにかはべりけむ、愁へにたへず、漏らし聞こしめさせし心地なむしはべる。 [みゆき][311] かうまで御覧ぜられ、あり難き御はぐくみに隠ろへはべりけるも、前の世の契りおろかならじ」と申したまふ。 [みゆき][312] みな聞きてはべり。 [みゆき][313] 宮仕にと急ぎ出で立ちはべりしことは、さやうの御かへりみもやとてこそ、なべての女房たちだに仕うまつらぬ事まで、おりたち仕うまつれ。 [みゆき][315] 尚侍のことは、などかおのれにとくはものせざりし」と、いとまめやかにてのたまへば、いとうれしと思ひて、「さも御気色賜はらまほしうはべりしかど、この女御殿など、おのづから伝へきこえさせたまひてむ、と頼みふくれてなむさぶらひつるを、なるべき人ものしたまふやうに聞きたまふれば、夢に富したる心地しはべりてなむ、胸に手を置きたるやうにはべる」と申したまふ。 [みゆき][316] 「やまと歌は、あしあしもつづけはべりなむ。 検索結果 「本文」の中の「はべり」 かつ、 「巻名」の中の「藤ばかま」を検索しました。 全部で 6 件です。 [藤ばかま][322] さばかり見どころある御あはひどもにて、をかしきさまなることのわづらはしき、はた、必ず出で来なんかし」と思ふに、ただならず胸塞がる心地すれど、つれなくすくよかにて、「人に聞かすまじとはべりつることを聞こえさせんに、いかがはべるべき」と気色だてば、近くさぶらふ人も、すこし退きつつ、御几帳の背後などにそばみあへり。 [藤ばかま][324] この御あらはし衣の色なくは、えこそ思ひたまへ分くまじかりけれ」とのたまへば、「何ごとも思ひ分かぬ心には、ましてともかくも思ひたまへたどられはべらねど、かかる色こそ、あやしくものあはれなるわざにはべりけれ」とて、例よりもしめりたる御気色、いとらうたげにをかし。 [藤ばかま][324] おなじ野の露にやつるる藤袴あはれはかけよかごとばかりも「道のはてなる」とかや、いと心づきなくうたてなりぬれど、見知らぬさまに、やをらひき入りて、「たづぬるにはるけき野辺の露ならばうす紫やかごとならましかやうにて聞こゆるより、深きゆゑはいかが」とのたまへば、すこしうち笑ひて、「浅きも深きも、思し分く方ははべりなんと思ひたまふる。 [藤ばかま][325] 人の上に、なんど思ひはべりけん。 [藤ばかま][329] 「内内にも、やむごとなきこれかれ年ごろを経てものしたまへば、えその筋の人数にはものしたまはで、捨てがてらにかく譲りつけ、おほぞうの宮仕の筋に、領ぜんと思しおきつる、いと賢くかどあることなりとなん、よろこび申されけると、たしかに人の語り申しはべりしなり」と、いとうるはしきさまに語り申したまへば、げに、さは思ひたまふらむかしと思すに、いとほしくて、「いとまがまがしき筋にも思ひ寄りたまひけるかな。 [藤ばかま][332] かくまで咎めたまふも、なかなかうとうとしき心地なむしはべりける」と、いとまめだちて聞こえ出だしたまへり。 検索結果 「本文」の中の「はべり」 かつ、 「巻名」の中の「まきばしら」を検索しました。 全部で 5 件です。 [まきばしら][355] ここになど渡してば心やすくはべりなむ。 [まきばしら][358] 御心をばさるものにて、人いかに取りなしはべりけん」と、きすくに書きたまへり。 [まきばしら][364] 「いたう荒れはべりなん。 [まきばしら][370] 思ほし棄つまじき人々もはべればと、のどかに思ひはべりける心のおこたりを、かへすがへす聞こえてもやる方なし。 [まきばしら][383] 「ながめする軒のしづくに袖ぬれてうたかた人をしのばざらめやほどふるころは、げにことなるつれづれもまさりはべりけり。 検索結果 「本文」の中の「はべり」 かつ、 「巻名」の中の「藤のうら葉」を検索しました。 全部で 3 件です。 [藤のうら葉][425] 残り少なくなりゆく末の世に、思ひ棄てたまへるも、恨みきこゆべくなん」とのたまへば、うちかしこまりて、「過ぎにし御おもむけも、頼みきこえさすべきさまに、承りおくことはべりしかど、ゆるしなき御気色に憚りつつなん」と聞こえたまふ。 [藤のうら葉][426] 「一日の花の蔭の対面の、飽かずおぼえはべりしを、御暇あらば立ち寄りたまひなんや」とあり。 [藤のうら葉][432] やうやう夜更けゆくほどに、いたうそら悩みして、「乱り心地いとたへがたうて、まかでん空もほとほとしうこそはべりぬべけれ。 検索結果 「本文」の中の「はべり」 かつ、 「巻名」の中の「わかな上」を検索しました。 全部で 39 件です。 [わかな上][14] その中に、後見などあるは、さる方にも思ひゆづりはべり、三の宮なむ、いはけなき齢にて、ただ一人を頼もしきものとならひて、うち棄ててむ後の世に漂ひさすらへむこと、いといとうしろめたく悲しくはべる」と、御目おし拭ひつつ聞こえ知らせさせたまふ。 [わかな上][17] 対面に聞こゆべきことどもはべり。 [わかな上][17] 中納言の君、「過ぎはべりにけん方は、ともかくも思うたまへ分きがたくはべり。 [わかな上][17] 年まかり入りはべりて、朝廷にも仕うまつりはべる間、世の中のことを見たまへまかり歩くほどには、大小の事につけても、内々のさるべき物語などのついでにも、いにしへの愁はしき事ありてなんなど、うちかすめ申さるるをりははべらずなん。 [わかな上][25] それに、同じくは、げにさもおはしまさば、いかにたぐひたる御あはひならむ」と語らふを、乳母、また事のついでに、「しかじかなん、なにがしの朝臣にほのめかしはべりしかば、かの院には必ず承け引き申させたまひてむ、年ごろの御本意かなひて思しぬべきことなるを、こなたの御ゆるしまことにありぬべくは、伝へきこえん、となん申しはべりしを、いかなるべきことにかははべらむ。 [わかな上][40] 「故院に後れたてまつりしころほひより、世の常なく思うたまへられしかば、この方の本意深くすすみはべりにしを、心弱く思うたまへたゆたふことのみはべりつつ、つひにかく見たてまつりなしはべるまで、後れたてまつりはべりぬる心のぬるさを、恥づかしく思ひたまへらるるかな。 [わかな上][40] 身にとりては、事にもあるまじく思うたまへ立ちはべるをりをりあるを、さらにいと忍びがたきこと多かりぬべきわざにこそはべりけれ」と、慰めがたく思したり。 [わかな上][40] 院ももの心細く思さるるに、え心強からず、うちしほたれたまひつつ、昔今の御物語、いと弱げに聞こえさせたまひて、「今日か明日かとおぼえはべりつつ、さすがにほど経ぬるを、うちたゆみて深き本意のはしにても遂げずなりなんこと、と思ひ起こしてなん。 [わかな上][41] 御心の中にも、さすがにゆかしき御ありさまなれば、思し過ぐしがたくて、「げにただ人よりも、かかる筋は、私ざまの御後見なきは、口惜しげなるわざになんはべりける。 [わかな上][50] 「過ぐる齢も、みづからの心にはことに思ひとがめられず、ただ昔ながらの若々しきありさまにて、改むることもなきを、かかる末々のもよほしになん、なまはしたなきまで思ひ知らるるをりもはべりける。 [わかな上][63] 「今朝の雪に心地あやまりて、いと悩ましくはべれば、心やすき方にためらひはべり」とあり。 [わかな上][63] 御乳母、「さ聞こえさせはべりぬ」とばかり、言葉に聞こえたり。 [わかな上][84] 中納言の乳母といふ召し出でて、「おなじかざしを尋ねきこゆれば、かたじけなけれど、分かぬさまに聞こえさすれど、ついでなくてはべりつるを。 [わかな上][99] 尼姿いとかはらかに、あてなるさまして、目つややかに泣き腫れたるけしきの、あやしく昔思ひ出でたるさまなれば、胸うちつぶれて、「古代のひが言どもやはべりつらむ。 [わかな上][100] 「老の波かひある浦に立ちいでてしほたるるあまを誰かとがめむ昔の世にも、かやうなる古人は、罪ゆるされてなんはべりける」と聞こゆ。 [わかな上][105] この年ごろは、同じ世の中のうちにめぐらひはべりつれど、何かは、かくながら身をかへたるやうに思ひたまへなしつつ、させる事なきかぎりは聞こえ承らず。 [わかな上][106] わがおもと生まれたまはんとせしその年の二月のその夜の夢に見しやう、みづから須弥の山を右の手に捧げたり、山の左右より、月日の光さやかにさし出でて世を照らす、みづからは、山の下の蔭に隠れて、その光にあたらず、山をば広き海に浮かべおきて、小さき舟に乗りて、西の方をさして漕ぎゆく、となん見はべりし。 [わかな上][106] 夢さめて、朝より、数ならぬ身に頼むところ出で来ながら、何ごとにつけてか、さるいかめしきことをば待ち出でむ、と心の中に思ひはべしを、そのころより孕まれたまひにしこなた、俗の方の書を見はべりしにも、また内教の心を尋ぬる中にも、夢を信ずべきこと多くはべりしかば、賎しき懐の中にも、かたじけなく思ひいたづきたてまつりしかど、力及ばぬ身に思うたまへかねてなむ、かかる道におもむきはべりにし。 [わかな上][107] またこの国のことに沈みはべりて、老の波にさらにたち返らじと思ひとぢめて、この浦に年ごろはべりしほども、わが君を頼むことに思ひきこえはべりしかばなむ、心ひとつに多くの願を立てはべりし。 [わかな上][107] このひとつの思ひ、近き世にかなひはべりぬれば、遥かに西の方、十万億の国隔てたる九品の上の望み疑ひなくなりはべりぬれば、今は、ただ、迎ふる蓮を待ちはべるほど、その夕まで、水草清き山の末にて勤めはべらむとてなむまかり入りぬる。 [わかな上][108] 願ひはべる所にだに至りはべりなば、必ずまた対面ははべりなむ。 [わかな上][108] 尼君には、ことごとにも書かず、ただ、「この月の十四日になむ、草の庵まかり離れて深き山に入りはべりぬる。 [わかな上][108] かひなき身をば、熊狼にも施しはべりなん。 [わかな上][109] 今は、と世を背きたまひしをりを、悲しきとぢめと思ひたまへしかど、残りはべりけり。 [わかな上][111] 尼君、久しくためらひて、「君の御徳には、うれしく面だたしきことをも、身にあまりて並びなく思ひはべり。 [わかな上][111] あはれにいぶせき思ひもすぐれてこそはべりけれ。 [わかな上][112] 世に経し時だに、人に似ぬ心ばへにより世をもてひがむるやうなりしを、若きどち頼みならひて、おのおのはまたなく契りおきてければ、かたみにいと深くこそ頼みはべりしか。 [わかな上][115] 何ごとをも御心と思し数まへざらむこなた、ともかくもはかなくなりはべりなば、必ずしも、いまはのとぢめを御覧ぜらるべき身にもはべらねば、なほうつし心失せずはべる世になむ、はかなきことをも聞こえさせおくべくはべりける、と思ひはべりて。 [わかな上][115] かばかり、と見たてまつりおきつれば、みづからも世を背きはべりなんと思うたまへなりゆけば、よろづ心のどかにもおぼえはべらず。 [わかな上][115] もとより、御身に添ひきこえさせんにつけても、つつましき身のほどにはべれば、譲りきこえそめはべりにしを、いとかうしもものしたまはじとなん、年ごろは、なほ世の常に思うたまへわたりはべりつる。 [わかな上][116] 今は、来し方行く先、うしろやすく思ひなりにてはべり」などいと多く聞こえたまふ。 [わかな上][118] いまめかしくなり返らせたまふめる御心ならひに、聞き知らぬやうなる御すさび言どもこそ時々出で来れ」とて、ほほ笑みたまへれど、ものあはれなりける御気色どもしるければ、あやしとうち傾きたまへるさまなれば、わづらはしくて、「かの明石の岩屋より、忍びてはべし御祈祷の巻数、また、まだしき願などのはべりけるを、御心にも知らせたてまつるべきをりあらば、御覧じおくべくやとてはべるを、ただ今はついでなくて、何かは開けさせたまはん」と聞こえたまふに、げにあはれなるべきありさまぞかし、と思して、「いかに行ひまして住みたまひにたらむ。 [わかな上][119] 「今は、かのはべりし所をも棄てて、鳥の音聞こえぬ山にとなん、聞きはべる」と聞こゆれば、「さらばその遺言ななりな。 [わかな上][120] 今はとて、別れはべりにしかど、なほこそあはれは残りはべるものなりけれ」とて、さまよくうち泣きたまふ。 [わかな上][121] 「これは、また具して奉るべきものはべり。 [わかな上][130] 「これかれはべりつ」「こなたへまかでんや」とのたまひて、寝殿の東面、桐壼は若宮具したてまつりて、参りたまひにしころなれば、こなた隠ろへたりけり、遣水などの行きあひはれて、よしあるかかりのほどを尋ねて立ち出づ。 [わかな上][136] いと目も及ばずかしこうこそ見えつれ」とのたまへば、うちほほ笑みて、「はかばかしき方にはぬるくはべる家の風の、さしも吹き伝へはべらんに、後の世のためことなることなくこそはべりぬべけれ」と申したまへば、「いかでか。 [わかな上][138] みな聞きてはべり。 [わかな上][140] 「一日、風にさそはれて御垣の原を分け入りてはべりしに、いとどいかに見おとしたまひけん。 検索結果 「本文」の中の「はべり」 かつ、 「巻名」の中の「わかな下」を検索しました。 全部で 25 件です。 [わかな下][148] 「唐猫の、ここのに違へるさましてなんはべりし。 [わかな下][149] 御琴など教へきこえたまふとて、「御猫どもあまた集ひはべりにけり。 [わかな下][181] ここにまたうとき人の入るべきやうもなきを」とのたまへば、うちかしこまりて賜はりたまふほど、用意多くめやすくて、壱越調の声に発の緒を立てて、ふとも調べやらでさぶらひたまへば、「なほ掻き合はせばかりは、手一つ、すさまじからでこそ」とのたまへば、「さらに、今日の御遊びのさしいらへにまじらふばかりの手づかひなん、おぼえずはべりける」と、気色ばみたまふ。 [わかな下][187] 女は春をあはれぶ、と古き人の言ひおきはべりける、げにさなむはべりける。 [わかな下][187] なつかしくもののととのほることは、春の夕暮こそことにはべりけれ」と申したまへば、「いな、この定めよ。 [わかな下][188] その御前の御遊びなどに、ひときざみに選ばるる人々、それかれといかにぞ」とのたまへば、大将、「それをなむとり申さむと思ひはべりつれど、明らかならぬ心のままにおよすけてやは、と思ひたまふる。 [わかな下][188] をさをさ際離れぬものにはべめるを、いとかしこくととのひてこそはべりつれ」と、めできこえたまふ。 [わかな下][211] おほけなき心は、すべて、よし見たまへ、いと恐ろしければ、思ひ離れてはべり」とのたまへば、「これよりおほけなき心は、いかがはあらむ。 [わかな下][212] いとよく聞きはべりや。 [わかな下][216] 昔よりおほけなき心のはべりしを、ひたぶるに籠めてやみはべなましかば、心の中に朽して過ぎぬべかりけるを、なかなか漏らし聞こえさせて、院にも聞こしめされにしを、こよなくもて離れてものたまはせざりけるに、頼みをかけそめはべりて、身の数ならぬ一際に、人より深き心ざしをむなしくなしはべりぬることと動かしはべりにし心なむ、よろづ今はかひなきことと思ひたまへ返せど、いかばかりしみはべりにけるにか、年月にそへて、口惜しくも、つらくも、むくつけくも、あはれにも、いろいろに深く思ひたまへまさるにせきかねて、かくおほけなきさまを御覧ぜられぬるも、かつはいと思ひやりなく恥づかしければ、罪重き心もさらにはべるまじ」と言ひもてゆくに、この人なりけり、と思すに、いとめざましく恐ろしくて、つゆ答へもしたまはず。 [わかな下][218] いみじく憎ませたまへば、また聞こえさせむこともあり難きを、ただ一言御声を聞かせたまへ」と、よろづに聞こえ悩ますも、うるさくわびしくて、もののさらに言はれたまはねば、「はてはては、むくつけくこそなりはべりぬれ。 [わかな下][218] いと棄てがたきによりてこそ、かくまでもはべれ、今宵に限りはべりなむもいみじくなむ。 [わかな下][219] つゆにても御心ゆるしたまふさまならば、それにかへつるにても棄てはべりなまし」とて、かき抱きて出づるに、はてはいかにしつるぞ、とあきれて思さる。 [わかな下][219] 隅の間の屏風をひきひろげて、戸を押し開けたれば、渡殿の南の戸の、昨夜入りしがまだ開きながらあるに、まだ明けぐれのほどなるべし、ほのかに見たてまつらむの心あれば、格子をやをら引き上げて、「かう、いとつらき御心にうつし心もうせはべりぬ。 [わかな下][219] さりとも、いま、思しあはする事もはべりなむ」とて、のどかならず立ち出づる明けぐれ、秋の空よりも心づくしなり。 [わかな下][230] やうやう生き出でたまふやうに聞きなしはべりて、今なむ皆人心しづむめれど、まだいと頼もしげなしや。 [わかな下][231] かく、これかれ参りたまへるよし聞こしめして、「重き病者のにはかにとぢめつるさまなりつるを、女房などは心もえをさめず、乱りがはしく騒ぎはべりけるに、みづからも、えのどめず心あわたたしきほどにてなむ。 [わかな下][241] 今朝、院の御覧じつる文の色こそ似てはべりつれ」と聞こゆれば、あさましと思して、涙のただ出で来に出で来れば、いとほしきものから、言ふかひなの御さまや、と見たてまつる。 [わかな下][242] 人々の参りしに、事あり顔に近くさぶらはじと、さばかりの忌をだに、心の鬼に避りはべしを、入らせたまひしほどは、すこしほど経はべりにしを、隠させたまひつらむとなむ思ひたまへし」と聞こゆれば、「いさとよ。 [わかな下][253] 「常なき世とは身ひとつにのみ知りはべりにしを、後れぬ、とのたまはせたるになむ、げに、あま舟にいかがはおもひおくれけんあかしの浦にいさりせし君回向には、あまねきかどにても、いかがは」とあり。 [わかな下][266] 「月ごろ、方々に思し悩む御こと承り嘆きはべりながら、春のころほひより、例もわづらひはべる乱り脚病といふものところせく起こりわづらひはべりて、はかばかしく踏み立つることもはべらず、月ごろに添へて沈みはべりてなむ、内裏などにも参らず、世の中跡絶えたるやうにて籠りはべる。 [わかな下][266] 院の御齢足りたまふ年なり、人よりさだかに数へたてまつり仕うまつるべきよし、致仕の大臣思ひおよび申されしを、冠を挂け、車を惜しまず棄ててし身にて、進み仕うまつらむにつく所なし、げに下臈なりとも、同じごと深きところはべらむ、その心御覧ぜられよ、ともよほし申さるることのはべりしかば、重き病をあひ助けてなん、参りてはべりし。 [わかな下][267] 今は、いよいよいとかすかなるさまに思し澄まして、いかめしき御よそひを待ちうけたてまつりたまはむこと、願はしくも思すまじく見たてまつりはべりしを、事どもをばそがせたまひて、静かなる御物語の深き御願ひかなはせたまはむなん、まさりてはべるべき」と申したまへば、いかめしく聞きし御賀の事を、女二の宮の御方ざまには言ひなさぬも、労ありと思す。 [わかな下][273] 数ならぬ身にて、及びがたき御仲らひになまじひにゆるされたてまつりてさぶらふしるしには、長く世にはべりて、かひなき身のほども、すこし人と等しくなるけぢめをもや御覧ぜらるる、とこそ思うたまへつれ、いといみじくかくさへなりはべれば、深き心ざしをだに御覧じはてられずやなりはべりなむ、と思うたまふるになん、とまりがたき心地にも、え行きやるまじく思ひたまへらるる」など、かたみに泣きたまひて、とみにもえ渡りたまはねば、また、母北の方うしろめたく思して、「などか、まづ見えむとは思ひたまふまじき。 [わかな下][274] かかる命のほどを知らで、行く末長くのみ思ひはべりけること」と、泣く泣く渡りたまひぬ。 検索結果 「本文」の中の「はべり」 かつ、 「巻名」の中の「かしは木」を検索しました。 全部で 18 件です。 [かしは木][294] 「世の中を、かへり見すまじう思ひはべりしかど、なほ、まどひさめがたきものはこの道の闇になんはべりければ、行ひも懈怠して、もし後れ先だつ道の道理のままならで別れなば、やがてこの恨みもやかたみに残らむとあぢきなさに、この世の譏りをば知らで、かくものしはべる」と聞こえたまふ。 [かしは木][299] 「世の中の、今日か明日かにおぼえはべりしほどに、また知る人もなくてただよはんことのあはれに避りがたうおぼえはべしかば、御本意にはあらざりけめど、かく聞こえつけて、年ごろは心やすく思ひたまへつるを、もしも生きとまりはべらば、さま異に変りて、人繁き住まひはつきなかるべきを、さるべき山里などにかけ離れたらむありさまも、また、さすがに心細かるべくや。 [かしは木][299] 乱り心地とかく乱れはべりて、何ごともえわきまへはべらず」とて、げにいとたへがたげに思したり。 [かしは木][304] 今日は、かかる御よろこびに、いささかすくよかにもや、とこそ思ひはべりつれ」とて、几帳のつまをひき上げたまへれば、「いと口惜しう、その人にもあらずなりにてはべりや」とて、烏帽子ばかり押し入れて、すこし起き上らむとしたまへど、いと苦しげなり。 [かしは木][305] そこ所と苦しきこともなければ、たちまちにかうも思ひたまへざりしほどに、月日も経で弱りはべりにければ、今はうつし心も失せたるやうになん。 [かしは木][306] 六条院にいささかなる事の違ひ目ありて、月ごろ、心の中に、かしこまり申すことなんはべりしを、いと本意なう、世の中心細う思ひなりて、病づきぬとおぼえはべしに、召しありて、院の御賀の楽所の試みの日参りて、御気色を賜はりしに、なほゆるされぬ御心ばへあるさまに御眼尻を見たてまつりはべりて、いとど世にながらへんことも憚り多うおぼえなりはべりて、あぢきなう思ひたまへしに心の騒ぎそめて、かく静まらずなりぬるになん。 [かしは木][306] 人数には思し入れざりけめど、いはけなうはべし時より、深う頼み申す心のはべりしを、いかなる讒言などのありけるにかと、これなんこの世の愁へにて残りはべるべければ、論なう、かの後の世のさまたげにもやと思ひたまふるを、事のついではべらば、御耳とどめて、よろしう明らめ申させたまへ。 [かしは木][307] 「げにいささかも隙ありつるをり、聞こえ承るべうこそはべりけれ。 [かしは木][307] されど、いとかう今日明日としもやはと、みづからながら知らぬ命のほどを思ひのどめはべりけるもはかなくなん。 [かしは木][318] 「いみじきことを思ひたまへ嘆く心は、さるべき人々にも越えてはべれど、限りあれば聞こえさせやる方なうて、世の常になりはべりにけり。 [かしは木][318] いまはのほどにも、のたまひおくことはべりしかば、おろかならずなむ。 [かしは木][319] 神事などの繁きころほひ、私の心ざしにまかせて、つくづくと籠りゐはべらむも例ならぬことなりければ、立ちながら、はた、なかなかに飽かず思ひたまへらるべうてなん、日ごろを過ぐしはべりにける。 [かしは木][320] いみじとても、また、たぐひなきことにやはと、年つもりぬる人はしひて心強うさましはべるを、さらに思し入りたるさまのいとゆゆしきまで、しばしもたち後れたまふまじきやうに見えはべれば、すべていと心憂かりける身の、今までながらへはべりて、かくかたがたにはかなき世の末のありさまを見たまへ過ぐすべきにや、といと静心なくなん。 [かしは木][320] おのづから近き御仲らひにて、聞き及ばせたまふやうもはべりけん。 [かしは木][320] はじめつ方より、をさをさ承け引ききこえざりし御事を、大臣の御心むけも心苦しう、院にもよろしきやうに思しゆるいたる御気色などのはべりしかば、さらばみづからの心おきての及ばぬなりけりと思ひたまへなしてなん見たてまつりつるを、かく夢のやうなることを見たまふるに思ひたまへあはすれば、はかなきみづからの心のほどなん、同じうは強うもあらがひきこえましを、と思ひはべるに、なほいと悔しう。 [かしは木][320] 皇女たちは、おぼろけのことならで、あしくもよくも、かやうに世づきたまふことは、心にくからぬことなりと、古めき心には思ひはべりしを。 [かしは木][321] いづ方にもよらず、中空にうき御宿世なりければ、何かは、かかるついでに煙にも紛れたまひなんは、この御身のための人聞きなどはことに口惜しかるまじけれど、さりとても、しかすくよかにえ思ひ静むまじう、悲しう見たてまつりはべるに、いとうれしう浅からぬ御とぶらひのたびたびになりはべるめるを、あり難うも、と聞こえはべるも、さらばかの御契りありけるにこそはと、思ふやうにしも見えざりし御心ばへなれど、いまはとてこれかれにつけおきたまひける御遺言のあはれなるになん、うきにもうれしき瀬はまじりはべりける」とて、いといたう泣いたまふけはひなり。 [かしは木][324] 「君の御母君の隠れたまへりし秋なん、世に悲しきことの際にはおぼえはべりしを、女は限りありて、見る人少なう、とある事もかかる事もあらはならねば、悲しびも隠ろへてなむありける。 検索結果 「本文」の中の「はべり」 かつ、 「巻名」の中の「よこ笛」を検索しました。 全部で 8 件です。 [よこ笛][344] 秋の夜ふかしはべらんも昔の咎めや、と憚りてなむ、まかではべりぬべかめる。 [よこ笛][344] ひき違ふることもはべりぬべき世なれば、うしろめたくこそ」など、まほにはあらねど、うちにほはしおきて出でたまふ。 [よこ笛][345] 「これになむ、まことに古きことも伝はるべく聞きおきはべりしを、かかる蓬生に埋もるるもあはれに見たまふるを、御先駆に競はん声なむ、よそながらもいぶかしうはべる」と聞こえたまへば、「似つかはしからぬ随身にこそははべるべけれ」とて、見たまふに、これも、げに、世とともに身に添へてもて遊びつつ、「みづからもさらにこれが音の限りはえ吹き通さず。 [よこ笛][345] 盤渉調のなからばかり吹きさして、「昔を忍ぶ独りごとは、さても罪ゆるされはべりけり。 [よこ笛][348] 夢の中にも、亡き人のわづらはしうこの声をたづねて来たる、と思ふに、「笛竹に吹きよる風のことならば末の世ながき音に伝へなむ思ふ方異にはべりき」と言ふを、問はんと思ふほどに、若君の寝おびれて泣きたまふ御声にさめたまひぬ。 [よこ笛][354] なほ常ならぬ世のあはれをかけそめはべりにしあたりに、心短くはべらんこそ、なかなか世の常の嫌疑あり顔にはべらめ、とてこそ。 [よこ笛][355] 想夫恋は、心とさしすぎて言出でたまはんや、憎きことにはべらまし、もののついでにほのかなりしは、をりからのよしづきて、をかしうなむはべりし。 [よこ笛][357] その御気色を見るに、いとど憚りて、とみにもうち出できこえたまはねど、せめて聞かせたてまつらんの心あれば、今しも事のついでに思ひ出でたるやうに、おぼめかしうもてなして、「いまは、とせしほどにも、とぶらひにまかりてはべりしに、亡からむ後のことども言ひおきはべりし中に、しかじかなん深くかしこまり申すよしを、返す返すものしはべりしかば、いかなる事にかはべりけむ、今にそのゆゑをなんえ思ひたまへ寄りはべらねば、おぼつかなくはべる」と、いとたどたどしげに聞こえたまふに、さればよ、と思せど、何かはそのほどのことあらはしのたまふべきならねば、しばしおぼめかしくて、「しか人の恨みとまるばかりの気色は、何のついでにかは漏り出でけんと、みづからもえ思ひ出でずなむ。 検索結果 「本文」の中の「はべり」 かつ、 「巻名」の中の「すゞむし」を検索しました。 全部で 5 件です。 [すゞむし][374] 「今はかう静かなる御住まひにしばしばも参りぬべく、何とはなけれど、過ぐる齢にそへて忘れぬ昔の御物語など承り聞こえまほしう思ひたまふるに、何にもつかぬ身のありさまにて、さすがにうひうひしくところせくもはべりてなん。 [すゞむし][375] 例の、いと若うおほどかなる御けはひにて、「九重の隔て深うはべりし年ごろよりも、おぼつかなさのまさるやうに思ひたまへらるるありさまを、いと思ひの外にむつかしうて、皆人の背きゆく世を厭はしう思ひなることもはべりながら、その心の中を聞こえさせ承らねば、何ごともまづ頼もしき蔭には聞こえさせならひて、いぶせくはべる」と聞こえたまふ。 [すゞむし][377] 御息所の、御身の苦しうなりたまふらむありさま、いかなる煙の中にまどひたまふらん、亡き影にても、人にうとまれたてまつりたまふ御名のりなどの出で来けること、かの院にはいみじう隠したまひけるを、おのづから人の口さがなくて伝へ聞こしめしける後、いと悲しういみじくて、なべての世の厭はしく思しなりて、仮にても、かののたまひけんありさまのくはしう聞かまほしきを、まほにはえうち出できこえたまはで、ただ、「亡き人の御ありさまの罪軽からぬさまにほの聞くことのはべりしを、さるしるしあらはならでも、推しはかりつべきことにはべりけれど、後れしほどのあはればかりを忘れぬことにて、物のあなた思うたまへやらざりけるがものはかなさを。 [すゞむし][377] いかで、よう言ひ聞かせん人の勧めをも聞きはべりて、みづからだにかの炎をも冷ましはべりにしがなと、やうやうつもるになむ、思ひ知らるる事もありける」など、かすめつつぞのたまふ。 [すゞむし][378] しか思ひたまふることはべりながら、もの騒がしきやうに、静かなる本意もなきやうなるありさまに、明け暮らしはべりつつ、みづからの勤めにそへて、いま静かにと思ひたまふるも、げにこそ心幼きことなれ」など、世の中なべてはかなく厭ひ棄てまほしきことを聞こえかはしたまへど、なほやつしにくき御身のありさまどもなり。 検索結果 「本文」の中の「はべり」 かつ、 「巻名」の中の「夕ぎり」を検索しました。 全部で 28 件です。 [夕ぎり][387] もし、かひなくなりはてはべりなば、このかしこまりをだに聞こえさせでや、と思ひたまふるをなむ、いましばしかけとどめまほしき心つきはべりぬる」と聞こえ出だしたまへり。 [夕ぎり][387] 「渡らせたまひし御送りにもと思うたまへしを、六条院に承りさしたる事はべりしほどにてなん。 [夕ぎり][387] 日ごろも、そこはかとなく紛るる事はべりて、思ひたまふる心のほどよりは、こよなくおろかに御覧ぜらるることの苦しうはべる」など聞こえたまふ。 [夕ぎり][389] げにいと侮りにくげなるさましたまへれば、さればよと、「なかなかなる御答へ聞こえ出でむは恥づかしう」などつきしろひて、「かかる御愁へ聞こしめし知らぬやうなり」と宮に聞こゆれば、「みづから聞こえたまはざめるかたはらいたさに代はりはべるべきを、いと恐ろしきまでものしたまふめりしを見あつかひはべりしほどに、いとどあるかなきかの心地になりてなん、え聞こえぬ」とあれば、「こは宮の御消息か」とゐなほりて、「心苦しき御悩みを、身に代ふばかり嘆ききこえさせはべるも、何のゆゑにか。 [夕ぎり][389] ただあなたざまに思し譲りて、つもりはべりぬる心ざしをも知ろしめされぬは、本意なき心地なむ」と聞こえたまふ。 [夕ぎり][403] 故大納言のいとよき仲にて、語らひつけたまへる心違へじと、この年ごろ、さるべき事につけて、いとあやしくなむ語らひものしたまふも、かくふりはへ、わづらふをとぶらひにとて立ち寄りたまへりければ、かたじけなく聞きはべりし」と聞こえたまふ。 [夕ぎり][404] げにいとかうばしき香の満ちて頭痛きまでありつれば、げにさなりけりと思ひあはせはべりぬる。 [夕ぎり][406] 今朝の御文のけしき、宮もほのかにのたまはせつるやうなど聞こえ、「年ごろ忍びわたりたまひける心の中を聞こえ知らせむとばかりにやはべりけむ。 [夕ぎり][410] 思へば、ただ時の間に隔たりぬべき世の中を、あながちにならひはべりにけるも悔しきまでなん」など泣きたまふ。 [夕ぎり][411] 「あさましき御心のほどを、見たてまつりあらはいてこそ、なかなか心やすくひたぶる心もつきはべりぬべけれ。 [夕ぎり][414] 今朝風邪おこりて悩ましげにしたまへるを、院の御前にはべりて出でつるほど、またも参うでずなりぬれば、いとほしさに、今の間いかにと聞こえたりつるなり。 [夕ぎり][422] 院よりはじめたてまつりて思しなびき、この父大臣にもゆるいたまふべき御気色ありしに、おのれ一人しも心をたててもいかがはと思ひ弱りはべりし事なれば、末の世までものしき御ありさまを、わが御過ちならぬに、大空をかこちて見たてまつり過ぐすを、いとかう人のためわがための、よろづに聞きにくかりぬべきことの出で来添ひぬべきが。 [夕ぎり][422] さても、よその御名をば知らぬ顔にて、世の常の御ありさまにだにあらば、おのづからあり経んにつけても、慰むこともやと思ひなしはべるを、こよなう情なき人の御心にもはべりけるかな」と、つぶつぶと泣きたまふ。 [夕ぎり][425] 日ごろ重く悩みたまふと聞きわたりつれど、例もあつしうのみ聞きはべりつるならひにうちたゆみてなむ。 [夕ぎり][427] 「いかに聞こえさせたまふとか、聞こえはべるべき」「いと軽らかならぬ御さまにて、かくふりはへ急ぎ渡らせたまへる御心ばへを、思しわかぬやうならむも、あまりにはべりぬべし」と口々聞こゆれば、「ただ推しはかりて。 [夕ぎり][427] 渡らせたまへるよしは、聞こえさせはべりぬ」と聞こゆ。 [夕ぎり][428] いかにしてかくにはかにと、その御ありさまなむゆかしき」とのたまへば、まほにはあらねど、かの思ほし嘆きしありさまを、片はしづつ聞こえて、「かこち聞こえさするさまになむなりはべりぬべき。 [夕ぎり][428] 今日はいとど乱りがはしき心地どものまどひに、聞こえさせ違ふることどももはべりなむ。 [夕ぎり][436] 過ぎにし御ことにも、ほとほと御心まどひぬべかりしをりをり多くはべりしを、宮の同じさまに沈みたまうしをこしらへきこえんの御心強さになむ、やうやうものおぼえたまうし。 [夕ぎり][443] はかばかしきよすがなき人は、生ける世の限りにて、かかる世のはてこそ悲しうはべりけれ」と聞こえたまふ。 [夕ぎり][447] 今は、国のこともはべり、まかり下りぬべし。 [夕ぎり][454] 「さやうにも、なほ人の言ひなしつべき事にはべり。 [夕ぎり][454] 故御息所は、いと心強うあるまじきさまに言ひ放ちたまうしかど、限りのさまに御心地の弱りけるに、また見譲るべき人のなきや悲しかりけむ、亡からむ後の後見にとやうなることのはべりしかば、もとよりの心ざしもはべりし事にて、かく思たまへなりぬるを、さまざまに、いかに人あつかひはべらむかし。 [夕ぎり][455] ありありて心づきなき心つかふと、思しのたまはむを憚りはべりつれど、げにかやうの筋にてこそ、人の諫めをも、みづからの心にも従はぬやうにはべりけれ」と、忍びやかに聞こえたまふ。 [夕ぎり][455] 「人の偽りにや、と思ひはべりつるを、まことにさるやうある御気色にこそは。 [夕ぎり][456] なほ南の殿の御心用ゐこそ、さまざまにあり難う、さてはこの御方の御心などこそは、めでたきものには見たてまつりはてはべりぬれ」など、ほめきこえたまへば、笑ひたまひて、「ものの例に引き出でたまふほどに、身の人わろきおぼえこそあらはれぬべう。 [夕ぎり][462] 若々しうけしからぬ聞こえもはべりぬべきを、例の御ありさまにて、あるべきことをこそ聞こえたまはめ」などよろづに聞こえければ、さもあることとは思しながら、今より後のよその聞こえをもわが御心の過ぎにし方をも、心づきなく恨めしかりける人のゆかりと思し知りて、その夜も対面したまはず。 [夕ぎり][470] かしこなる人々も、らうたげに恋ひきこゆめりしを、選り残したまへる、やうあらむとは見ながら、思ひ棄てがたきを、ともかくももてなしはべりなむ」と、おどしきこえたまへば、すがすがしき御心にて、この君たちをさへや、知らぬ所にゐて渡したまはん、とあやふし。 検索結果 「本文」の中の「はべり」 かつ、 「巻名」の中の「みのり」を検索しました。 全部で 3 件です。 [みのり][492] 乱り心地いと苦しくなりはべりぬ。 [みのり][492] 言ふかひなくなりにけるほどといひながら、いとなめげにはべりや」とて、御几帳ひき寄せて臥したまへるさまの、常よりもいと頼もしげなく見えたまへば、「いかに思さるるにか」とて、宮は御手をとらへたてまつりて泣く泣く見たてまつりたまふに、まことに消えゆく露の心地して限りに見えたまへば、御誦経の使ども数も知らずたち騒ぎたり。 [みのり][503] 冷泉院の后の宮よりも、あはれなる御消息絶えず、尽きせぬことども聞こえたまひて、「枯れはつる野辺をうしとや亡き人の秋に心をとどめざりけん今なんことわり知られはべりぬる」とありけるを、ものおぼえぬ御心にも、うち返し、置きがたく見たまふ。 検索結果 「本文」の中の「はべり」 かつ、 「巻名」の中の「まぼろし」を検索しました。 全部で 3 件です。 [まぼろし][520] さやうにあさへたることは、かへりて軽々しきもどかしさなどもたち出でて、なかなかなることなどはべるを、思したつほど鈍きやうにはべらんや、つひに澄みはてさせたまふ方深うはべらむと、思ひやられはべりてこそ。 [まぼろし][526] 「昨日今日と思ひたまふるほどに、御はてもやうやう近うなりはべりにけり。 [まぼろし][527] 「かやうの事、もとよりとりたてて思しおきてけるは、うしろやすきわざなれど、この世にはかりそめの御契りなりけりと見たまふには、形見といふばかりとどめきこえたまへる人だにものしたまはぬこそ、口惜しうはべりけれ」と申したまへば、「それは、かりそめならず命長き人々にも、さやうなることのおほかた少なかりける。 検索結果 「本文」の中の「はべり」 かつ、 「巻名」の中の「こうばい」を検索しました。 全部で 4 件です。 [こうばい][39] 「月ごろ何となくもの騒がしきほどに、御琴の音をだにうけたまはらで久しうなりはべりにけり。 [こうばい][39] 翁は、とりたてて習ふ物はべらざりしかど、その昔さかりなりし世に遊びはべりし力にや、聞き知るばかりのわきまへは、何ごとにもいとつきなうははべらざりしを、うちとけても遊ばさねど、時々うけたまはる御琵琶の音なむ昔おぼえはべる。 [こうばい][44] 「とくまかではべりにし悔しさに、まだ内裏におはしますと人の申しつれば、急ぎ参りつるや」と、幼げなるものから馴れ聞こゆ。 [こうばい][45] 心知らむ人になどこそ、聞きはべりしか」など語りきこゆ。 検索結果 「本文」の中の「はべり」 かつ、 「巻名」の中の「たけ川」を検索しました。 全部で 6 件です。 [たけ川][60] 必ずその心ざし御覧ぜられよと戒めはべり」など聞こえたまふ。 [たけ川][61] さきざきの人、さやうの憚りによりとどこほることもはべりかし」と申したまへば、「女御なん、つれづれにのどかになりにたるありさまも、同じ心に後見て慰めまほしきをなど、かのすすめたまふにつけて、いかがなどだに思ひたまへよるになん」と聞こえたまふ。 [たけ川][71] 上は、若君の御木、と定めたまひしを、いとさは泣きののしらねど、安からず思ひたまへられしはや」とて、「この桜の老木になりにけるにつけても、過ぎにける齢を思ひたまへ出づれば、あまたの人に後れはべりにける身の愁へもとめがたうこそ」など、泣きみ笑ひみ聞こえたまひて、例よりはのどやかにおはす。 [たけ川][82] 「みづからも参るべきに思ひたまへつるに、つつしむ事のはべりてなん。 [たけ川][102] とざまかうざまに頼もしく思ひたまへて、出だしたてはべりしほどは、いづ方をも心安くうちとけ頼みきこえしかど、今は、かかる事あやまりに、幼うおほけなかりけるみづからの心を、もどかしくなん」と、うち泣いたまふ気色なり。 [たけ川][102] かかる御まじらひの安からぬことは、昔よりさることとなりはべりにけるを。 検索結果 「本文」の中の「はべり」 かつ、 「巻名」の中の「はし姫」を検索しました。 全部で 25 件です。 [はし姫][121] 「出家の心ざしはもとよりものしたまへるを、はかなきことに思ひとどこほり、今となりては、心苦しき女子どもの御上をえ思ひ棄てぬとなん、嘆きはべりたまふ」と奏す。 [はし姫][133] ありつる侍に、「をりあしく参りはべりにけれど、なかなかうれしく、思ふことすこし慰めてなむ。 [はし姫][134] 「この御簾の前にははしたなくはべりけり。 [はし姫][135] さやうの方は、わざとすすむる人はべりとも、なびくべうもあらぬ心強さになん。 [はし姫][135] おのづから聞こしめしあはするやうもはべりなん。 [はし姫][137] 「さし過ぎたる罪もや、と思うたまへ忍ぶれど、あはれなる昔の御物語の、いかならむついでにうち出できこえさせ、片はしをもほのめかし知ろしめさせむと、年ごろ念誦のついでにもうちまぜ思うたまへわたる験にや、うれしきをりにはべるを、まだきにおぼほれはべる涙にくれて、えこそ聞こえさせずはべりけれ」と、うちわななく気色、まことにいみじくもの悲しと思へり。 [はし姫][137] また、はべりとも、夜の間のほど知らぬ命の頼むべきにもはべらぬを。 [はし姫][137] さらば、ただ、かかる古者世にはべりけりとばかり知ろしめされはべらなむ。 [はし姫][137] 三条宮にはべりし小侍従はかなくなりはべりにけるとほの聞きはべりし。 [はし姫][138] その昔睦ましう思うたまへし同じほどの人多く亡せはべりにける世の末に、遙るなる世界より伝はり参うで来て、この五六年のほどなむ、これにかくさぶらひはべる。 [はし姫][138] かの権大納言の御乳母にはべりしは、弁が母になむはべりし。 [はし姫][138] 朝夕に仕うまつり馴れはべりしに、人数にもはべらぬ身なれど、人に知らせず、御心よりはた余りけることををりをりうちかすめのたまひしを、今は限りになりたまひにし御病の末つ方に召し寄せて、いささかのたまひおくことなむはべりしを、聞こしめすべきゆゑなん一事はべれど、かばかり聞こえ出ではべるに、残りを、と思しめす御心はべらば、のどかになん聞こしめしはてはべるべき。 [はし姫][143] うちつけなるさまにや、とあいなくとどめはべりて、残り多かるも苦しきわざになむ。 [はし姫][146] かやすきほどこそ、すかまほしくは、いとよくすきぬべき世にはべりけれ。 [はし姫][146] この聞こえさするわたりは、いと世づかぬ聖ざまにて、こちごちしうぞあらむと、年ごろ思ひ侮りはべりて、耳をだにこそとどめはべらざりけれ。 [はし姫][148] 明け方近くなりぬらんと思ふほどに、ありししののめ思ひ出でられて、琴の音のあはれなることのついでつくり出でて、「前のたび霧にまどはされはべりし曙に、いとめづらしき物の音、一声うけたまはりし残りなむ、なかなかにいといぶかしう、飽かず思うたまへらるる」など聞こえたまふ。 [はし姫][149] 「さらに、ほのかに聞きはべりし同じものとも、思うたまへられざりけり。 [はし姫][152] かくものはかなく、数ならぬ身のほどにはべれど、夜昼かの御かげにつきたてまつりてはべりしかば、おのづからもののけしきをも見たてまつりそめしに、御心よりあまりて思しける時々、ただ二人の中になん、たまさかの御消息の通ひもはべりし。 [はし姫][152] 今はのとぢめになりたまひて、いささか、のたまひおくことのはべりしを、かかる身には置き所なく、いぶせく思うたまへわたりつつ、いかにしてかは聞こしめし伝ふべきと、はかばかしからぬ念誦のついでにも思うたまへつるを、仏は世におはしましけりとなん思うたまへ知りぬる。 [はし姫][153] 御覧ぜさすべき物もはべり。 [はし姫][153] 今は、何かは、焼きも棄てはべりなむ、かく朝夕の消えを知らぬ身の、うち棄てはべりなば、落ち散るやうもこそと、いとうしろめたく思うたまふれど、この宮わたりにも、時々ほのめかせたまふを、待ち出でたてまつりてしかば、すこし頼もしく、かかるをりもやと念じはべりつる力出で参うできてなむ。 [はし姫][154] 「むなしうなりたまひし騒ぎに、母にはべりし人は、やがて病づきてほども経ず隠れはべりにしかば、いとど思うたまへ沈み、藤衣裁ち重ね、悲しきことを思ひたまへしほどに、年ごろよからぬ人の心をつけたりけるが、人をはかりごちて、西の海のはてまでとりもてまかりにしかば、京のことさへ跡絶えて、その人もかしこにて亡せはべりにし後、十年あまりにてなん、あらぬ世の心地してまかり上りたりしを、この宮は、父方につけて、童より参り通ふゆゑはべりしかば、今は、かう、世にまじらふべきさまにもはべらぬを、冷泉院の女御殿の御方などこそは、昔聞き馴れたてまつりしわたりにて、参り寄るべくはべりしかど、はしたなくおぼえはべりて、えさし出ではべらで、深山隠れの朽木になりにてはべるなり。 [はし姫][154] 小侍従はいつか亡せはべりにけん。 [はし姫][154] その昔の若ざかりと見はべりし人は、数少なくなりはべりにける末の世に、多くの人に後るる命を、悲しく思ひたまへてこそ、さすがにめぐらひはべれ」など聞こゆるほどに、例の、明けはてぬ。 [はし姫][155] 我なほ生くべくもあらずなりにたり、とのたまはせて、この御文をとり集めて賜はせたりしかば、小侍従に、またあひ見はべらむついでに、さだかに伝へ参らせむと思ひたまへしを、やがて別れはべりにしも、私事には飽かず悲しうなん思うたまふる」と聞こゆ。 検索結果 「本文」の中の「はべり」 かつ、 「巻名」の中の「しゐがもと」を検索しました。 全部で 11 件です。 [しゐがもと][167] 「かかるをりのこと、わざとがましくもてなし、ほどの経るも、なかなか憎き事になむしはべりし」など、古人ども聞こゆれば、中の君にぞ書かせたてまつりたまふ。 [しゐがもと][173] 「すべて、まことに、しか思ひたまへ棄てたるけにやはべらむ、みづからの事にては、いかにもいかにも深う思ひ知る方のはべらぬを、げにはかなきことなれど、声にめづる心こそ背きがたきことにはべりけれ。 [しゐがもと][173] さかしう聖だつ迦葉も、さればや、起ちて舞ひはべりけむ」など聞こえて、飽かず一声聞きし御琴の音を切にゆかしがりたまへば、うとうとしからぬはじめにもとや思すらむ、御みづからあなたに入りたまひて、切にそそのかしきこえたまふ。 [しゐがもと][188] なよび気色ばみたるふるまひをならひはべらねば、人づてに聞こえはべるは、言の葉もつづきはべらず」とあれば、「あさましう、今までながらへはべるやうなれど、思ひさまさん方なき夢にたどられはべりてなむ、心より外に空の光見はべらむもつつましうて、端近うもえ身じろきはべらぬ」と聞こえたまへれば、「事といへば、限りなき御心の深さになむ。 [しゐがもと][188] 行く方もなく、いぶせうおぼえはべり。 [しゐがもと][193] 「いたく暮れはべりぬ」と申せば、ながめさして立ちたまふに、雁鳴きて渡る。 [しゐがもと][196] 阿闍梨の室より、炭などのやうの物奉るとて、「年ごろにならひはべりにける宮仕の、今とて絶えはべらんが、心細さになむ」と聞こえたり。 [しゐがもと][201] 雪ふかき山のかけ橋君ならでまたふみかよふあとを見ぬかなと書きて、さし出でたまへれば、「御ものあらがひこそ、なかなか心おかれはべりぬべけれ」とて、「つららとぢ駒ふみしだく山川をしるべしがてらまづやわたらむさらばしも、影さへ見ゆるしるしも、浅うははべらじ」と聞こえたまへば、思はずに、ものしうなりて、ことに答へたまはず。 [しゐがもと][202] 「暮れはてなば、雪いとど空も閉ぢぬべうはべり」と、御供の人々声づくれば、帰りたまひなむとて、「心苦しう見めぐらさるる御住まひのさまなりや。 [しゐがもと][203] 「世の中に頼むよるべもはべらぬ身にて、一ところの御蔭に隠れて、三十余年を過ぐしはべりにければ、今はまして、野山にまじりはべらむも、いかなる木の本をかは頼むべくはべらむ」と申して、いとど人わろげなり。 [しゐがもと][209] 「あなたに屏風もそへて立ててはべりつ。 検索結果 「本文」の中の「はべり」 かつ、 「巻名」の中の「あげまき」を検索しました。 全部で 16 件です。 [あげまき][219] 身を棄てがたく思ふかぎりはほどほどにつけてまかで散り、昔の古き筋なる人も、多く見たてまつり棄てたるあたりに、まして、今は、しばしも立ちとまりがたげにわびはべりつつ、おはしましし世にこそ、限りありて、かたほならむ御ありさまはいとほしくもなど、古代なる御うるはしさに、思しもとどこほりつれ、今は、かう、また頼みなき御身どもにて、いかにもいかにも世になびきたまへらんを、あながちに譏りきこえむ人は、かへりてものの心をも知らず、言ふかひなきことにてこそはあらめ、いかなる人か、いとかくて世をば過ぐしはてたまふべき、松の葉をすきて勤むる山伏だに、生ける身の棄てがたさによりてこそ、仏の御教をも、道々別れては行ひなすなれ、などやうの、よからぬことを聞こえ知らせ、若き御心ども乱れたまひぬべきこと多くはべるめれど、たわむべくもものしたまはず、中の宮をなむ、いかで人めかしくもあつかひなしたてまつらむ、と思ひきこえたまふべかめる。 [あげまき][224] 「山路分けはべりつる人は、ましていと苦しけれど、かく聞こえ承るに慰めてこそはべれ。 [あげまき][231] 人々、「日は残りなくなりはべりぬ。 [あげまき][233] 「今はとて脱ぎ棄てはべりしほどの心まどひに、なかなか沈みはべりてなむ、え聞こえぬ」とあり。 [あげまき][255] 中空に人わらへにもなりはべりぬべきかな」とのたまふに、いますこし思ひ寄らぬ事の、目もあやに心づきなくなりて、「かく、よろづにめづらかなりける御心のほども知らで、言ふかひなき心幼さも見えたてまつりにける怠りに、思し侮るにこそは」と、言はむ方なく思ひたまへり。 [あげまき][255] やむごとなき方に思し寄るめるを、宿世などいふめるもの、さらに心にかなはぬものにはべるめれば、かの御心ざしはことにはべりけるを、いとほしく思ひたまふるに、かなはぬ身こそ置き所なく心憂くはべりけれ。 [あげまき][260] 人々も、「いかにはべりし事にか」など、御気色見たてまつれど、思しほれたるやうにて頼もし人のおはすれば、あやしきわざかなと思ひあへり。 [あげまき][264] 今宵は雑役もやと思うたまへれど、宿直所のはしたなげにはべりし乱り心地いとどやすからで、やすらはれはべる」と、陸奥国紙に追ひつぎ書きたまひて、設けの物どもこまやかに、縫ひなどもせざりける、いろいろおし巻きなどしつつ、御衣櫃あまた懸籠入れて、老人のもとに、「人々の料に」とて賜へり。 [あげまき][267] 台盤所の方にて承りつれば、人知れず、わづらはしき宮仕のしるしに、あいなき勘当やはべらむと、顔の色違ひはべりつる」と申したまへば、「いと聞きにくくぞ思しのたまふや。 [あげまき][267] 今宵の罪にはかはりきこえさせて、身をもいたづらになしはべりなむかし。 [あげまき][294] 在五が物語描きて、妹に琴教へたるところの、「人の結ばん」と言ひたるを見て、いかが思すらん、すこし近く参り寄りたまひて、「いにしへの人も、さるべきほどは、隔てなくこそならはしてはべりけれ。 [あげまき][302] かくてはかなくもなりはべりなば、これよりなごりなき方に、もてなしきこゆる人もや出で来む、とうしろめたきを。 [あげまき][306] 世に心憂くはべりける身の命の長さにて、かかる事を見たてまつれば、まづいかで先立ちきこえなむ、と思ひたまへ入りはべり」と、言ひもやらず泣くさま、ことわりなり。 [あげまき][308] 日ごろ、訪れたまはざりつれば、おぼつかなくて過ぎはべりぬべきにや、と口惜しくこそはべりつれ」と、息の下にのたまふ。 [あげまき][311] さては思ひたまへ得たることはべりて、常不軽をなむつかせはべる」など申すに、君もいみじう泣きたまふ。 [あげまき][312] 重々しき道には行はぬことなれど、尊くこそはべりけれ」とて、霜さゆる汀の千鳥うちわびてなく音かなしきあさぼらけかな言葉のやうに聞こえたまふ。 検索結果 「本文」の中の「はべり」 かつ、 「巻名」の中の「さわらび」を検索しました。 全部で 3 件です。 [さわらび][336] 御祈祷はたゆみなく仕うまつりはべり。 [さわらび][345] いとどあらぬ世の心地しはべり」と聞こえたまへれば、「はしたなしと思はれたてまつらむとしも思はねど、いさや、心地も例のやうにもおぼえず、かき乱りつつ、いとどはかばかしからぬひが言もや、とつつましうて」など、苦しげに思いたれど、「いとほし」など、これかれ聞こえて、中の障子の口にて対面したまへり。 [さわらび][346] 人の心さまざまにはべる世なれば、あいなくやなど、一方にもえこそ思ひはべらね」と聞こえたまへば、「宿をば離れじ、と思ふ心深くはべるを、近く、などのたまはするにつけても、よろづに乱れはべりて、聞こえさせやるべき方もなく」など、所どころ言ひ消ちて、いみじくものあはれと思ひたまへるけはひなど、いとようおぼえたまへるを、心からよそのものに見なしつると思ふに、いと悔しく思ひゐたまへれど、かひなければ、その夜のこと、かけても言はず、忘れにけるにや、と見ゆるまで、けざやかにもてなしたまへり。 検索結果 「本文」の中の「はべり」 かつ、 「巻名」の中の「やどり木」を検索しました。 全部で 40 件です。 [やどり木][380] 昨夜、御車率て帰りはべりにき」と申す。 [やどり木][382] 女房の御けはひもしはべりつ」と申せば、下りて、霧の紛れにさまよく歩み入りたまへるを、宮の忍びたる所より帰りたまへるにやと見るに、露にうちしめりたまへるかをり、例の、いとさまことに匂ひ来れば、「なほめざましくおはすかし。 [やどり木][385] つれづれの紛らはしにも、と思ひて、先つころ、宇治にものしてはべりき。 [やどり木][385] 庭も籬もまことにいとど荒れはててはべりしに、たへがたきこと多くなん。 [やどり木][385] 故院の亡せたまひて後、二三年ばかりの末に、世を背きたまひし嵯峨院にも、六条院にも、さしのぞく人の心をさめん方なくなんはべりける。 [やどり木][385] 木草の色につけても、涙にくれてのみなん帰りはべりける。 [やどり木][385] かの御あたりの人は、上下心浅き人なくこそはべりけれ、方々集ひものせられける人々も、みな所どころあかれ散りつつ、おのおの思ひ離るる住まひをしたまふめりしに、はかなきほどの女房などは、まして心をさめん方なくおぼえけるままに、ものおぼえぬ心にまかせつつ山林に入りまじり、すずろなる田舎人になりなど、あはれにまどひ散るこそ多くはべりけれ。 [やどり木][386] かくは聞こえさせながらも、かのいにしへの悲しさは、まだいはけなくもはべりけるほどにて、いとさしもしまぬにやはべりけん。 [やどり木][387] 「世のうきよりはなど、人は言ひしをも、さやうに思ひくらぶる心もことになくて年ごろは過ぐしはべりしを、今なん、なほいかで静かなるさまにても過ぐさまほしく思うたまふるを、さすがに心にもかなはざめれば、弁の尼こそうらやましくはべれ。 [やどり木][387] この二十日あまりのほどは、かの近き寺の鐘の声も聞きわたさまほしくおぼえはべるを、忍びて渡させたまひてんや、と聞こえさせばや、となん思ひはべりつる」とのたまへば、「荒さじと思すとも、いかでかは。 [やどり木][387] 故宮の御忌日は、かの阿闍梨にさるべき事どもみな言ひおきはべりにき。 [やどり木][388] 日さしあがりて、人々参り集まりなどすれば、あまり長居も事あり顔ならむによりて、出でたまひなんとて、「いづこにても御簾の外にはならひはべらねば、はしたなき心地しはべりてなん。 [やどり木][398] さらずは夜のほどに思し変りにたるか」とて、わが御袖して涙を拭ひたまへば、「夜の間の心変りこそ、のたまふにつけて、推しはかられはべりぬれ」とて、すこしほほ笑みぬ。 [やどり木][410] 一日の御事は、阿闍梨の伝へたりしに、くはしく聞きはべりにき。 [やどり木][413] 「わざと召しとはべらざりしかど、例ならずゆるさせたまへりしよろこびに、すなはちも参らまほしくはべりしを、宮渡らせたまふ、と承りしかば、をりあしくやはとて、今日になしはべりにける。 [やどり木][413] さるは、年ごろの心のしるしもやうやうあらはれはべるにや、隔てすこし薄らぎはべりにける御簾の内よ。 [やどり木][413] めづらしくはべるわざかな」とのたまふに、なほいと恥づかしく、言ひ出でん言葉もなき心地すれど、「一日、うれしく聞きはべりし心の中を、例の、ただむすぼほれながら過ぐしはべりなば、思ひ知る片はしをだにいかでかはと口惜しさに」と、いとつつましげにのたまふが、いたく退きて、絶え絶えほのかに聞こゆれば、心もとなくて、「いと遠くもはべるかな。 [やどり木][414] さらずは、すこしも違ひ目ありて、心軽くもなど思しものせんに、いとあしくはべりなん。 [やどり木][434] 人に問ひはべりしかば、しばしこそ心地はあしかなれ、さて、また、よろしきをりありなどこそ教へはべしか。 [やどり木][435] 「いはけなかりしほどより、世の中を思ひ離れてやみぬべき心づかひをのみならひはべしに、さるべきにやはべりけん、うときものからおろかならず思ひそめきこえはべりし一ふしに、かの本意の聖心はさすがに違ひやしにけん。 [やどり木][436] 年ごろ、こなたかなたにつけつつ、見知る事どものはべりしかばこそ、さまことなる頼もし人にて、今はこれよりなどおどろかしきこゆれ」とのたまへば、「さやうなるをりもおぼえはべらぬものを、いとかしこきことに思しおきてのたまはするや。 [やどり木][436] 「限りだにある」など、忍びやかにうち誦じて、「思うたまへわびにてはべり。 [やどり木][438] 近き世に花降らせたる工匠もはべりけるを、さやうならむ変化の人もがな」と、とざまかうざまに忘れん方なきよしを、嘆きたまふ気色の心深げなるもいとほしくて、いますこし近くすべり寄りて、「人形のついでに、いとあやしく、思ひ寄るまじき事をこそ思ひ出ではべれ」とのたまふけはひのすこしなつかしきもいとうれしくあはれにて、「何ごとにか」と言ふままに、几帳の下より手をとらふれば、いとうるさく思ひならるれど、いかさまにして、かかる心をやめて、なだらかにあらんと思へば、この近き人の思はんことのあいなくて、さりげなくもてなしたまへり。 [やどり木][438] 「年ごろは世にやあらむとも知らざりつる人の、この夏ごろ、遠き所よりものして尋ね出でたりしを、うとくは思ふまじけれど、また、うちつけに、さしも何かは睦び思はん、と思ひはべりしを、先つころ来たりしこそ、あやしきまで昔人の御けはひに通ひたりしかば、あはれにおぼえなりにしか。 [やどり木][438] 形見など、かう思しのたまふめるは、なかなか何ごともあさましくもて離れたりとなん、見る人々も言ひはべりしを、いとさしもあるまじき人のいかでかはさはありけん」とのたまふを、夢語かとまで聞く。 [やどり木][440] 「いさや、いにしへの御ゆるしもなかりしことを、かくまで漏らしきこゆるも、いと口軽けれど、変化の工匠求めたまふいとほしさにこそ、かくも」とて、「いと遠き所に年ごろ経にけるを、母なる人の愁はしきことに思ひて、あながちに尋ねよりしを、はしたなくもえ答へではべりしにものしたりしなり。 [やどり木][443] 「人の上にて、あいなくものを思すめりしころの空ぞかし、と思ひたまへ出づるに、いつとはべらぬ中にも、秋の風は身にしみてつらくおぼえはべりて、げにかの嘆かせたまふめりしもしるき世の中の御ありさまを、ほのかに承るも、さまざまになん」と聞こゆれば、「とある事もかかる事も、ながらふればなほるやうもあるを、あぢきなく思ししみけんこそ、わが過ちのやうになほ悲しけれ。 [やどり木][444] 昔、別れを悲しびて、骨をつつみてあまたの年頸にかけてはべりける人も、仏の御方便にてなん、かの骨の嚢を棄てて、つひに聖の道にも入りはべりにける。 [やどり木][444] また、後の世のすすめともなるべき事にはべりけり。 [やどり木][446] 「今は、となりたまひしほどに、めづらしくおはしますらん御ありさまをいぶかしきものに思ひきこえさせたまふめりし御気色などの思ひたまへ出でらるるに、かく思ひかけはべらぬ世の末に、かくて見たてまつりはべるなん、かの御世に睦ましく仕うまつりおきししるしのおのづからはべりけると、うれしくも悲しくも思ひたまへられはべる。 [やどり木][448] 故宮の、まだかかる山里住みもしたまはず、故北の方の亡せたまへりけるほど近かりけるころ、中将の君とてさぶらひける上臈の、心ばせなどもけしうはあらざりけるを、いと忍びてはかなきほどにもののたまはせけるを、知る人もはべらざりけるに、女子をなん産みてはべりけるを、さもやあらんと思す事のありけるからに、あいなくわづらはしくものしきやうに思しなりて、またとも御覧じ入るることもなかりけり。 [やどり木][448] あいなくその事に思し懲りて、やがておほかた聖にならせたまひにけるを、はしたなく思ひてえさぶらはずなりにけるが、陸奥国の守の妻になりたりけるを、一年、上りて、その君たひらかにものしたまふよし、このわたりにもほのめかし申したりけるを、聞こしめしつけて、さらにかかる消息あるべき事にもあらず、とのたまはせ放ちければ、かひなくてなん嘆きはべりける。 [やどり木][448] さて、また、常陸になりて下りはべりにけるが、この年ごろ音にも聞こえたまはざりつるが、この春、上りて、かの宮には尋ね参りたりけるとなん、ほのかに聞きはべりし。 [やどり木][449] 弁も離れぬ仲らひにはべるべきを、その昔はほかほかにはべりて、くはしくも見たまへ馴れざりき。 [やどり木][449] 先つころ、京より、大輔がもとより申したりしは、かの君なん、いかでかの御墓にだに参らん、とのたまふなる、さる心せよなどはべりしかど、まだ、ここにさしはへてはおとなはずはべめり。 [やどり木][451] 山里にものしはべりて、いとど峰の朝霧にまどひはべりつる、御物語もみづからなん。 [やどり木][451] かしこの寝殿、堂になすべきこと、阿闍梨に言ひつけはべりにき。 [やどり木][451] 御ゆるしはべりてこそは、外に移すこともものしはべらめ。 [やどり木][482] いかにぞ、かの聞こえしことは」とのたまへば、「しか仰せ言はべりし後は、さるべきついではべらば、と待ちはべりしに、去年は過ぎて、この二月になん、初瀬詣のたよりに対面してはべりし。 [やどり木][482] かの母君に、思しめしたるさまはほのめかしはべりしかば、いとかたはらいたく、かたじけなき御よそへにこそははべるなれ、などなんはべりしかど、そのころほひは、のどやかにおはしまさず、と承りし、をり便なく思ひたまへつつみて、かくなんとも聞こえさせはべらざりしを、また、この月にも詣でて、今日帰りたまふなめり。 検索結果 「本文」の中の「はべり」 かつ、 「巻名」の中の「あづま屋」を検索しました。 全部で 23 件です。 [あづま屋][17] 女どもの知るたよりにて、仰せ言を伝へはじめはべりしに、中にかしづくむすめとのみ聞きはべれば、守のにこそは、とこそ思ひたまへつれ。 [あづま屋][17] 容貌心もすぐれてものしたまふこと、母上のかなしうしたまひて、面だたしう気高きことをせん、とあがめかしづかると聞きはべりしかば、いかでかの辺のこと伝へつべからん人もがなとのたまはせしかば、さるたより知りたまへり、ととり申ししなり。 [あづま屋][21] まことに同じことに思うたまふべき人なれど、よからぬ童べあまたはべりて、はかばかしからぬ身に、さまざま思ひたまへあつかふほどに母なるものも、これを他人と思ひわけたること、とくねり言ふことはべりて、ともかくも口入れさせぬ人のことにはべれば、ほのかに、しかなむ仰せらるることはべりとは聞きはべりしかど、なにがしを取りどころに思しける御心は知りはべらざりけり。 [あづま屋][22] 家の子にて見たてまつりしに、いと警策に、仕うまつらまほしと、心つきて思ひきこえしかど、遥かなる所にうちつづきて過ぐしはべる年ごろのほどに、うひうひしくおぼえはべりてなん、参りも仕まつらぬを、かかる御心ざしのはべりけるを。 [あづま屋][23] 領じたまふ所どころもいと多くはべり。 [あづま屋][25] 子ども多くはべれど、これはさまことに思ひそめたる者にはべり。 [あづま屋][29] 大将殿の御さま容貌の、ほのかに見たてまつりしに、さも命延ぶる心地のしはべりしかな。 [あづま屋][33] その事とはべらでは、なれなれしくや、とかしこまりて、え思ひたまふるままにも聞こえさせぬを、つつしむべきことはべりて、しばし所かへさせんと思うたまふるに、いと忍びてさぶらひぬべき隠れの方さぶらはば、いともいともうれしくなむ。 [あづま屋][42] うち棄てはべりなん後は、思はずなるさまに散りぼひはべらむが悲しさに、尼になして深き山にやし据ゑて、さる方に世の中を思ひ絶えてはべらましなどなん、思うたまへわびては、思ひよりはべる」など言ふ。 [あづま屋][43] 「わが身ひとつ、とのみ言ひあはする人もなき筑波山のありさまもかく明らめきこえさせて、いつもいつも、いとかくてさぶらはまほしく思ひたまへなりはべりぬれど、かしこにはよからぬあやしの者ども、いかにたち騒ぎ求めはべらん。 [あづま屋][44] かかるほどのありさまに身をやつすは口惜しきものになんはべりけると、身にも思ひ知らるるを、この君はただまかせきこえさせて、知りはべらじ」など、かこちきこえかくれば、げに見苦しからでもあらなん、と見たまふ。 [あづま屋][45] 内裏より参りたまへるなるべし、御前どものけはひあまたして、「昨夜、后の宮の悩みたまふよし承りて参りたりしかば、宮たちのさぶらひたまはざりしかば、いとほしく見たてまつりて、宮の御代りに今までさぶらひはべりつる。 [あづま屋][59] 例の、おどろおどろしくおびやかす」とのたまはすれば、「宮の侍に、平重経となん名のりはべりつる」と聞こゆ。 [あづま屋][59] 大夫はただ今なん、参りつる道に、御車引き出づる、見はべりつ」と申せば、げににはかに時々悩みたまふをりをりもあるを、と思すに、人の思すらんこともはしたなくなりて、いみじう恨み契りおきて出でたまひぬ。 [あづま屋][60] 人聞きもかたはらいたきことと思ひたまへて、降魔の相を出だして、つと見たてまつりつれば、いとむくつけく下衆下衆しき女と思して、手をいたく抓ませたまひつるこそ、直人の懸想だちて、いとをかしくもおぼえはべりつれ。 [あづま屋][61] この御ことはべらざらましかば、内々やすからずむつかしき事はをりをりはべりとも、なだらかに、年ごろのままにておはしますべきものを」など、うち泣きつつ言ふ。 [あづま屋][63] ただいと苦しくはべり」と聞こえたまへば、少将右近、目まじろきをして、「かたはらぞいたく思すらむ」と言ふも、ただなるよりはいとほし。 [あづま屋][65] 右近の君などには、事のありさまはじめより語りはべらん」と、せめてそそのかしたてて、こなたの障子のもとにて、「右近の君にもの聞こえさせん」と言へば、立ちて出でたれば、「いとあやしくはべりつる事のなごりに、身も熱うなりたまひて、まめやかに苦しげに見えさせたまふを、いとほしく見はべる。 [あづま屋][66] 思ふ人もなき身に、昔の御心ざしのやうに思ほさば、いとうれしくなん」など語らひたまへど、いとものつつましくて、また鄙びたる心に、答へきこえんこともなくて、「年ごろ、いと遙かにのみ思ひきこえさせしに、かう見たてまつりはべるは、何ごとも慰む心地しはべりてなん」とばかり、いと若びたる声にて言ふ。 [あづま屋][69] 「かくてさぶらひたまはば、年ごろの願ひの満つ心地して、人の漏り聞きはべらむもめやすく、面だたしきことになん思ひたまふるを、さすがにつつましきことになんはべりける。 [あづま屋][79] なほこれより伝へはてたまへ」とのたまへば、「一日、かの母君の文はべりき。 [あづま屋][79] 忌違ふとて、ここかしこになんあくがれたまふめる、このごろもあやしき小家に隠ろへものしたまふめるも心苦しく、すこし近きほどならましかば、そこにも渡して心やすかるべきを、荒ましき山道に、たはやすくもえ思ひたたでなん、とはべりし」と聞こゆ。 [あづま屋][90] まだなりあはぬ仏の御飾など見たまへおきて、今日よろしき日なりければ、急ぎものしはべりて、乱り心地の悩ましきに、物忌なりけるを思ひたまへ出でてなん。 検索結果 「本文」の中の「はべり」 かつ、 「巻名」の中の「うき舟」を検索しました。 全部で 30 件です。 [うき舟][102] 「宇治より大輔のおとどにとて、もてわづらひはべりつるを、例の、御前にてぞ御覧ぜんとて取りはべりぬる」と言ふもいとあわたたしきけしきにて、「この籠は、金をつくりて、色どりたる籠なりけり。 [うき舟][102] 女の文書きはいかがある」とて開けたまへれば、いと若やかなる手にて、「おぼつかなくて年も暮れはべりにける。 [うき舟][104] 誰がぞ」とのたまへば、「昔、かの山里にありける人のむすめの、さるやうありて、このごろかしこにあるとなむ聞きはべりし」と聞こえたまへば、おしなべて仕うまつるとは見えぬ文書きを、心えたまふに、かのわづらはしき事あるに思しあはせつ。 [うき舟][105] すべて、この子は、心地なうさし過ぐしてはべり。 [うき舟][115] 夜はいたう更けはべりぬらんものを」と言ふ。 [うき舟][119] 人のしたるわざかは」と思ひ慰めて、「今日、御迎へにとはべりしを、いかにせさせたまはむとする御ことにか。 [うき舟][126] 東山に聖御覧じにとなむ、人にはものしはべりつる」など語りて、「女こそ罪深うおはするものはあれ。 [うき舟][131] 「悩ましげにおはします、とはべりつれば、宮にもいとおぼつかなく思しめしてなむ。 [うき舟][153] 昔より、異やうなる心ばへはべりし身にて、世の中を、すべて例の人ならで過ぐしてん、と思ひはべりしを、かく見たてまつるにつけて、ひたぶるにも棄てがたければ、ありと人にも知らせざりし人の上さへ、心苦しう罪えぬべき心地してなむ」と、聞こえたまへば、「いかなることに心おくものとも知らぬを」と答へたまふ。 [うき舟][157] 「ゆゆしき身とのみ思うたまへしみにしかば、こまやかに見えたてまつりきこえさせむも、何かは、とつつましくて過ぐしはべりつるを、うち棄てて渡らせたまひなば、いと心細くなむはべるべけれど、かかる御住まひは、心もとなくのみ見たてまつるを、うれしくもはべるべかなるかな。 [うき舟][158] 世に知らず重々しくおはしますべかめる殿の御ありさまにて、かく尋ねきこえさせたまひしも、おぼろけならじ、と聞こえおきはべりにし、浮きたることにやははべりける」など言ふ。 [うき舟][158] 宮の上の、かたじけなくあはれに思したりしも、つつましきことなどのおのづからはべりしかば、中空に、ところせき御身なり、と思ひ嘆きはべりて」と言ふ。 [うき舟][158] おほかたは、いとめでたき御ありさまなれど、さる筋のことにて、上のなめしと思さむなむわりなき、と大輔がむすめの語りはべりし」と言ふにも、さりや、まして、と君は聞き臥したまへり。 [うき舟][159] 昔よりこの川のはやく恐ろしきことを言ひて、「先つころ、渡守が孫の童、棹さしはづして落ち入りはべりにける。 [うき舟][159] すべていたづらになる人多かる水にはべり」と、人々も言ひあへり。 [うき舟][161] 「さなむ思ひはべれど、かしこもいともの騒がしくはべり。 [うき舟][162] 左衛門大夫の家にや入る」と見せければ、「宮に参りて、式部少輔になむ、御文はとらせはべりつる」と言ふ。 [うき舟][163] 御文参らする人に、「あやしきことのはべりつる、見たまへ定めむとて、今までさぶらひつる」と言ふをほの聞きたまひて、歩み出でたまふままに、「何ごとぞ」と問ひたまふ。 [うき舟][164] 殿ついゐたまひて、「まかではべりぬべし。 [うき舟][165] 「今朝、かの宇治に、出雲権守時方朝臣のもとにはべる男の、紫の薄様にて桜につけたる文を、西の妻戸に寄りて、女房にとらせはべりつる見たまへつけて、しかじか問ひはべりつれば、言違へつつ、そらごとのやうに申しはべりつるを、いかに申すぞとて、童べして見せはべりつれば、兵部卿宮に参りはべりて、式部少輔道定朝臣になむ、その返り事はとらせはべりける」と申す。 [うき舟][165] 異方より出だしはべりにける。 [うき舟][165] 下人の申しはべりつるは、赤き色紙のいときよらなる、となむ申しはべりつる」と聞こゆ。 [うき舟][170] わが心もてありそめしことならねども、心憂き宿世かな、と思ひ入りて寝たるに、侍従と二人して、「右近が姉の、常陸にて人二人見はべりしを、ほどほどにつけては、ただかくぞかし。 [うき舟][170] これもかれも劣らぬ心ざしにて、思ひまどひてはべりしほどに、女は、今の方にいますこし心寄せまさりてぞはべりける。 [うき舟][172] よき人の御仲どちは、情なき事し出でよ、と思さずとも、ものの心えぬ田舎人どもの、宿直人にてかはりがはりさぶらへば、おのが番に当りていささかなる事もあらせじなど、過ちもしはべりなむ。 [うき舟][174] 「殿に召しはべりしかば、今朝参りはべりて、ただ今なんまかり帰りはんべりつる。 [うき舟][175] 雑事ども仰せられつるついでに、かくておはしますほどに、夜半暁のことも、なにがしらかくてさぶらふと思ほして、宿直人わざとさしたてまつらせたまふこともなきを、このごろ聞こしめせば、女房の御もとに、知らぬ所の人々通ふやうになん聞こしめすことある、たいだいしきことなり、宿直にさぶらふ者どもは、その案内聞きたらん、知らではいかがさぶらふべき、と問はせたまひつるに、承らぬことなれば、なにがしは身の病重くはべりて、宿直仕うまつることは、月ごろ怠りてはべれば、案内もえ知りはんべらず、さるべき男どもは、懈怠なくもよほしさぶらはせはべるを、さのごとき非常の事のさぶらはむをば、いかでか承らぬやうははべらん、となん申させはべりつる。 [うき舟][175] 用意してさぶらへ、便なきこともあらば、重く勘当せしめたまふべきよしなん仰せ言はべりつれば、いかなる仰せ言にか、と恐れ申しはんべる」と言ふを聞くに、梟の鳴かんよりも、いともの恐ろし。 [うき舟][181] 人けしき見はべりなば、なかなかにいとあしかりなん。 [うき舟][187] 参り来まほしきを、少将の方の、なほいと心もとなげに、物の怪だちて悩みはべれば、片時も立ち去ること、といみじく言はれはべりてなむ。 検索結果 「本文」の中の「はべり」 かつ、 「巻名」の中の「かげろふ」を検索しました。 全部で 30 件です。 [かげろふ][192] 今日は雨降りはべりぬべければ。 [かげろふ][194] いたくわづらふとも聞かず、日ごろ悩ましとのみありしかど、昨日の返り事はさりげもなくて、常よりもをかしげなりしものを」と、思しやる方なければ、「時方、行きて気色見、たしかなること問ひ聞け」とのたまへば、「かの大将殿、いかなることか、聞きたまふことはべりけん、宿直する者おろかなりなど戒め仰せらるるとて、下人のまかり出づるをも見とがめ問ひはべるなれば、言つくることなくて時方まかりたらんを、ものの聞こえはべらば、思しあはすることなどやはべらむ。 [かげろふ][195] すこしも心地のどめはべりてなむ、日ごろももの思したりつるさま、一夜いと心苦しと思ひきこえさせたまへりしありさまなども、聞こえさせはべるべき。 [かげろふ][196] 明け暮れ見たてまつりても飽かずおぼえたまひ、いつしかかひある御さまを見たてまつらむと、朝夕に頼みきこえつるにこそ命も延びはべりつれ、うち棄てたまひて、かく行く方も知らせたまはぬこと。 [かげろふ][199] さては、かの恐ろしと思ひきこゆるあたりに、心などあしき御乳母やうの者や、かう迎へたまふべしと聞きて、めざましがりて、たばかりたる人もやあらむと、下衆などを疑ひ、「今参りの心知らぬやある」と問へど、「いと世離れたりとて、ありならはぬ人は、ここにて、はかなきこともえせず、いまとく参らむ、と言ひつつなむ、みな、そのいそぐべきものどもなど取り具しつつ、かへり出ではべりにし」とて、もとよりある人だにかたへはなくて、いと人少ななるをりになんありける。 [かげろふ][209] やうやう世の物語聞こえたまふに、いと籠めてしもはあらじ、と思して、「昔より、心にしばしも籠めて聞こえさせぬこと残しはべるかぎりは、いといぶせくのみ思ひたまへられしを、今は、なかなかの上臈になりにてはべり、まして御暇なき御ありさまにて、心のどかにおはしますをりもはべらねば、宿直などに、その事となくてはえさぶらはず、そこはかとなくて過ぐしはべるをなん。 [かげろふ][210] 昔、御覧ぜし山里に、はかなくて亡せはべりにし人の、同じゆかりなる人、おぼえぬ所にはべりと聞きつけはべりて、時々さて見つべくや、と思ひたまへしに、あいなく人の譏りもはべりぬべかりしをりなりしかば、このあやしき所に置きてはべりしを、をさをさまかりて見ることもなく、また、かれも、なにがし一人をあひ頼む心もことになくてやありけむ、とは見たまひつれど、やむごとなく、ものものしき筋に思ひたまへばこそあらめ、見るに、はた、ことなる咎もはべらずなどして、心やすくらうたし、と思ひたまへつる人の、いとはかなくて亡くなりはべりにける。 [かげろふ][210] 昨日ほのかに聞きはべりき。 [かげろふ][211] いかに、とも聞こゆべく思ひたまへながら、わざと人に聞かせたまはぬこと、と聞きはべりしかばなむ」と、つれなくのたまへど、いとたへがたければ、言少なにておはします。 [かげろふ][211] おのづからさもやはべりけむ、宮にも参り通ふべきゆゑはべりしかば」など、すこしづつ気色ばみて、「御心地例ならぬほどは、すずろなる世のこと聞こしめし入れ御耳おどろくも、あいなきわざになむ。 [かげろふ][216] ものの心も知りはべらずながら、たぐひなき御心ざしを見たてまつりはべりしかば、君たちをも、何かは急ぎてしも聞こえうけたまはらむ、つひには仕うまつるべきあたりにこそ、と思ひたまへしを、言ふかひなく悲しき御ことの後は、私の御心ざしも、なかなか深さまさりてなむ」と語らふ。 [かげろふ][218] 夢にも、かく心強きさまに思しかくらむとは、思ひたまへずなむはべりし」など、くはしう聞こゆれば、まして、いといみじう、さるべきにて、ともかくもあらましよりも、いかばかりものを思ひたちて、さる水に溺れけん、と思しやるに、これを見つけてせきとめたらましかば、とわき返る心地したまへどかひなし。 [かげろふ][222] 我なむえ信ずまじき」とのたまへば、いといとほしく、さればよ、とわづらはしくて、「おのづから聞こしめしけむ、もとより思すさまならで生ひ出でたまへりし人の、世離れたる御住まひの後は、いつとなくものをのみ思すめりしかど、たまさかにもかく渡りおはしますを、待ちきこえさせたまふに、もとよりの御身の嘆きをさへ慰めたまひつつ、心のどかなるさまにて、時々も見たてまつらせたまふべきやうに、いつしかとのみ、言に出でてはのたまはねど、思しわたるめりしを、その御本意かなふべきさまに承ることどもはべりしに、かくてさぶらふ人どもも、うれしきことに思ひたまへいそぎ、かの筑波山も、からうじて心ゆきたる気色にて、渡らせたまはんことを営み思ひたまへしに、心えぬ御消息はべりけるに、この宿直など仕うまつる者どもも、女房たちらうがはしかなりなど、いましめ仰せらるることなど申して、ものの心えず荒々しき田舎人どもの、あやしきさまにとりなしきこゆることどもはべりしを、その後久しう御消息などもはべらざりしに、心憂き身なりとのみ、いはけなかりしほどより思ひ知るを、人数にいかで見なさんとのみよろづにあつかひたまふ母君の、なかなかなることの人笑はれになりはてば、いかに思ひ嘆かんなどおもむけてなん、常に嘆きたまひし。 [かげろふ][224] 右近もさぶらはぬをりははべらぬものを」とながめやすらひて、「おのづから聞こしめしけん、この宮の上の御方に、忍びて渡らせたまへりしを、あさましく思ひかけぬほどに入りおはしましたりしかど、いみじきことを聞こえさせはべりて、出でさせたまひにき。 [かげろふ][224] それに怖ぢたまひて、かのあやしくはべりし所には渡らせたまへりしなり。 [かげろふ][227] 尼君に消息せさせたまへれど、「いともいともゆゆしき身をのみ思ひたまへ沈みて、いとどものも思ひたまへられずほれはべりてなむ、うつぶし臥してはべる」と聞こえて出で来ねば、しひても立ち寄りたまはず。 [かげろふ][229] 年ごろは、心細きありさまを見たまへながら、それは数ならぬ身の怠りに思ひたまへなしつつ、かたじけなき御一言を、行く末長く頼みきこえさせはべりしに、言ふかひなく見たまへはてては、里の契りもいと心憂く悲しくなん。 [かげろふ][229] さまざまにうれしき仰せ言に命延びはべりて、いましばしながらへはべらば、なほ、頼みきこえさせはべるべきにこそ、と思ひたまふるにつけても、目の前の涙にくれはべりて、え聞こえさせやらずなむ。 [かげろふ][230] 言葉には、「みづからあひはべりたうびて、いみじく泣く泣くよろづのことのたまひて、幼き者どものことまで仰せられたるがいともかしこきに、また数ならぬほどは、なかなかいと恥づかしくなむ。 [かげろふ][230] 人に何ゆゑなどは知らせはべらで、あやしきさまどもをもみな参らせはべりて、さぶらはせん、となむものしはべりつる」と聞こゆ。 [かげろふ][241] ただ今はあへはべりなん」とて、手づから着せたてまつりたまふ。 [かげろふ][243] 大将も近く参りよりたまひて、御八講の尊くはべりしこと、いにしへの御こと、すこし聞こえつつ、残りたる絵見たまふついでに、「この里にものしたまふ皇女の、雲の上離れて思ひ屈したまへるこそ、いとほしう見たまふれ。 [かげろふ][244] まして、さも聞こえ馴れたまひにけむを、今棄てさせたまはんは、からきことにはべり」と啓したまふを、すきばみたる気色あるかとは、思しかけざりけり。 [かげろふ][245] げにいとさまよく、限りなきもてなしにて、渡殿の方は、左の大殿の君たちなどゐて、もの言ふけはひすれば、妻戸の前にゐたまひて、「おほかたには参りながら、この御方の見参に入ること難くはべれば、いとおぼえなく翁びはてにたる心地しはべるを、今よりは、と思ひおこしはべりてなん。 [かげろふ][246] 「いとあやしきことをこそ聞きはべりしか。 [かげろふ][247] 女も宮を思ひきこえさせけるにや、にはかに消え失せにけるを、身投げたるなめりとてこそ、乳母などやうの人どもは、泣きまどひはべりけれ」と聞こゆ。 [かげろふ][247] 「いさや、下衆はたしかならぬことをも言ひはべるものをと思ひはべれど、かしこにはべりける下童の、ただこのごろ、宰相が里に出でまうできて、たしかなるやうにこそ言ひはべりけれ。 [かげろふ][258] 弁のおもとは、「いとけざやかなる翁言、憎くはべり」とて、「旅寝してなほこころみよをみなヘしさかりの色にうつりうつらずさて後さだめきこえさせん」と言ヘば、宿かさばひと夜はねなんおほかたの花にうつらぬ心なりともとあれば、「何か、辱づかしめさせたまふ。 [かげろふ][258] 道あけはべりなんよ。 [かげろふ][262] 「人知れぬ心寄せなど聞こえさせはべれば、なかなか、皆人聞こえさせふるしつらむことを、うひうひしきさまにて、まねぶやうになりはべり。 検索結果 「本文」の中の「はべり」 かつ、 「巻名」の中の「てならひ」を検索しました。 全部で 44 件です。 [てならひ][271] いと不便にもはべりけるかな。 [てならひ][272] 一昨年の秋も、ここにはべる人の子の、二つばかりにはべしをとりて参うで来たりしかども、見驚かずはべりき」、「さてその児は死にやしにし」と言ヘば、「生きてはべり。 [てならひ][272] かくておいたらば、死にはてはべりぬべし。 [てならひ][294] 山籠りもうらやましう、常に出で立ちはべるを、おなじくはなど、慕ひまとはさるる人々に、妨げらるるやうにはべりてなん。 [てならひ][294] 今日は、みなはぶき棄ててものしはべりつる」とのたまふ。 [てならひ][299] 禅師の君、「この春、初瀬に詣でて、あやしくて見出でたる人となむ聞きはべりし」とて、見ぬことなればこまかには言はず。 [てならひ][300] わづらはしけれど、ほのかにも見つけたまひてけるを、隠し顔ならむもあやしとて、「忘れわびはべりて、いとど罪深うのみおぼえはべりつる慰めに、この月ごろ見たまふる人になむ。 [てならひ][302] 対面したまヘるにも、「心苦しきさまにてものしたまふと聞きはべりし人の御上なん、残りゆかしくはべる。 [てならひ][303] 「心地よげならぬ御願ひは、聞こえかはしたまはんに、つきなからぬさまになむ見えはべれど、例の人にてあらじと、いとうたたあるまで世を恨みたまふめれば、残り少なき齢の人だに、今はと背きはべる時は、いともの心細くおぼえはべりしものを、世をこめたるさかりにては、つひにいかが、となん見たまヘはべる」と、親がりて言ふ。 [てならひ][306] をちなる里も、こころみはべりぬれば」と言ひすさみて、「いたうすきがましからんも、さすがに便なし。 [てならひ][307] むすめ尼君、これもよきほどのすき者にて、「昔聞きはべりしよりも、こよなくおぼえはべるは、山風をのみ聞き馴れはべりにける耳からにや」とて、「いでや、これはひがことになりてはべらむ」と言ひながら弾く。 [てならひ][308] 「嫗は、昔、あづま琴をこそは、事もなく弾きはべりしかど、今の世には、変りにたるにやあらむ、この僧都の、聞きにくし、念仏よりほかのあだわざなせそと、はしたなめられしかば、何かは、とて弾きはべらぬなり。 [てならひ][308] さるは、いとよく鳴る琴もはべり」と言ひつづけて、いと弾かまほしと思ひたれば、いと忍びやかにうち笑ひて、「いとあやしきことをも制しきこえたまひける僧都かな。 [てならひ][310] つとめて、「昨夜は、かたがた心乱れはべりしかば、急ぎまかではべりし。 [てならひ][321] 下衆下衆しき法師ばらなどあまた来て、「僧都、今日下りさせたまふべし」「などにはかには」と問ふなれば、「一品の宮の御物の怪に悩ませたまひける、山の座主御修法仕まつらせたまヘど、なほ僧都参りたまはでは験なしとて、昨日二たびなん召しはべりし。 [てならひ][321] 右大臣殿の四位少将、昨夜夜更けてなん上りおはしまして、后の宮の御文などはべりければ下りさせたまふなり」など、いとはなやかに言ひなす。 [てならひ][323] 「不意にて見たてまつりそめてしも、さるべき昔の契りありけるにこそ、と思ひたまヘて、御祈祷なども、ねむごろに仕うまつりしを、法師は、その事となくて御文聞こえうけたまはらむも便なければ、自然になんおろかなるやうになりはべりぬる。 [てならひ][323] 「世の中にはべらじ、と思ひたちはべりし身の、いとあやしくて今まではべるを、心憂しと思ひはべるものから、よろづにものせさせたまひける御心ばヘをなむ、言ふかひなき心地にも、思ひたまへ知らるるを、なほ世づかずのみ、つひにえとまるまじく、思ひたまヘらるるを、尼になさせたまひてよ。 [てならひ][324] 思ひたちて、心を起こしたまふほどは強く思せど、年月経れば、女の御身といふもの、いとたいだいしきものになん」とのたまヘば、「幼くはべりしほどより、ものをのみ思ふべきありさまにて、親なども、尼になしてや見ましなどなむ思ひのたまひし。 [てならひ][324] まして、すこしもの思ひ知りはべりてのちは、例の人ざまならで、後の世をだに、と思ふ心深くはべりしを、亡くなるべきほどのやうやう近くなりはべるにや、心地のいと弱くのみなりはべるを、なほいかで」とて、うち泣きつつのたまふ。 [てならひ][324] 御忌むことは、いとやすく授けたてまつるべきを、急なることにてまかでたれば、今宵かの宮に参るべくはべり。 [てならひ][325] なほ今日はうれしきをりとこそ思うたまヘつれ」とて、いみじう泣きたまヘば、聖心にいといとほしく思ひて、「夜や更けはべりぬらん。 [てならひ][325] 山より下りはべること、昔はこととも思うたまヘられざりしを、年のおふるままには、たヘがたくはべりければ、うち休みて内裏には参らん、と思ひはべるを、しか思し急ぐことなれば、今日仕うまつりてん」とのたまふに、いとうれしくなりぬ。 [てならひ][330] 「書き写してだにこそ」とのたまヘど、「なかなか書きそこなひはべりなん」とてやりつ。 [てならひ][333] 「世の中に久しうはべるまじきさまに、仏なども教ヘたまヘることどもはべる中に、今年来年過ぐしがたきやうになむはべりければ、仏を紛れなく念じつとめはべらんとて、深く籠りはべるを、かかる仰せ言にてまかり出ではべりにし」など啓したまふ。 [てならひ][333] この三月に、年老いてはべる母の、願ありて初瀬に詣でてはべりし、帰さの中宿に、宇治院といひはべる所にまかり宿りしを、かくのごと、人住まで年経ぬるおほきなる所は、よからぬ物必ず通ひ住みて、重き病者のためあしきことどもや、と思ひたまヘしもしるく」とて、かの見つけたりし事どもを語りきこえたまふ。 [てならひ][334] 「その女人、このたびまかり出ではべりつるたよりに、小野にはべりつる尼どもあひ訪ひはべらんとて、まかり寄りたりしに、泣く泣く、出家の本意深きよし、ねむごろに語らひはべりしかば、頭おろしはべりにき。 [てならひ][334] なにがしが妹、故衛門督の妻にはべりし尼なん、亡せにし女子のかはりにと、思ひよろこびはべりて、随分にいたはりかしづきはべりけるを、かくなりたれば、恨みはべるなり。 [てならひ][334] げにぞ、容貌はいとうるはしくけうらにて、行ひやつれんもいとほしげになむはべりし。 [てならひ][334] 何人にかはべりけん」と、ものよく言ふ僧都にて、語りつづけ申したまヘば、「いかでさる所に、よき人をしもとりもて行きけん。 [てならひ][335] 龍の中より仏生まれたまはずはこそはべらめ、ただ人にては、いと罪軽きさまの人になんはべりける」など聞こえたまふ。 [てならひ][341] 「行く末の御後見は、命も知りがたく頼もしげなき身なれど、さ聞こえそめはべりなばさらに変りはべらじ。 [てならひ][344] 親たちものしたまはで後は、一ところをこそ御かはりに思ひきこえはべりつれ。 [てならひ][345] え待ちつけたまふまじきさまになむ見えたまふ」とのたまふに、わが親の名、とあいなく耳とまれるに、また言ふやう、「まかり上りて日ごろになりはべりぬるを、公事のいとしげく、むつかしうのみはべるにかかづらひてなん。 [てならひ][345] 織らすべきものは、急ぎせさせはべりなん」と言ふを聞くに、いかでかはあはれならざらむ。 [てならひ][346] 昨日も、いと不便にはべりしかな。 [てならひ][346] 上にのぼりたまひて、柱に書きつけたまひし、見し人は影もとまらぬ水の上に落ちそふなみだいとどせきあヘずとなむはべりし。 [てならひ][347] 若くはべりし時より、優におはすと見たてまつりしみにしかば、世の中の一のところも、何とも思ひはべらず、ただこの殿を頼みきこえさせてなん過ぐしはべりぬる」と語るに、ことに深き心もなげなるかやうの人だに、御ありさまは見知りにけり、と思ふ。 [てならひ][349] あまごろもかはれる身にやありし世のかたみに袖をかけてしのばんと書きて、いとほしく、亡くもなりなん後に、ものの隠れなき世なりければ、聞きあはせなどして、うとましきまで隠しけるとや思はんなど、さまざま思ひつつ、「過ぎにし方のことは、絶えて忘れはべりにしを、かやうなることを思しいそぐにつけてこそ、ほのかにあはれなれ」とおほどかにのたまふ。 [てならひ][350] かく亡くなして見はべりしだに、なほいづこにあらむ、そことだに尋ね聞かまほしくおぼえはべるを、行く方知らで、思ひきこえたまふ人々はべらむかし」とのたまヘば、「見しほどまでは、一人はものしたまひき。 [てならひ][351] 御前のどやかなる日にて、御物語など聞こえたまふついでに、「あやしき山里に、年ごろまかり通ひ見たまへしを、人の譏りはべりしも、さるべきにこそはあらめ、誰も心の寄る方のことはさなむある、と思ひたまヘなしつつ、なほ時々見たまヘしを、所のさがにや、と心憂く思ひたまヘなりにし後は、道も遥けき心地しはべりて、久しうものしはべらぬを、先つころ、もののたよりにまかりて、はかなき世のありさまとり重ねて思ひたまヘしに、ことさら道心をおこすべく造りおきたりける聖の住み処となんおぼえはべりし」と啓したまふに、かのこと思し出でて、いといとほしければ、「そこには恐ろしき物や住むらん。 [てならひ][351] 亡せはべりにしさまもなんいとあやしくはべる」とて、くはしくは聞こえたまはず。 [てならひ][354] 「あさましうて失ひはべりぬと思ひたまヘし人、世に落ちあぶれてあるやうに、人のまねびはべりしかな。 [てならひ][355] さらに、さてありけりとも、知らず顔にて過ぐしはべりなん」と啓したまヘば、「僧都の語りしに、いともの恐ろしかりし夜のことにて、耳もとどめざりしことにこそ。 検索結果 「本文」の中の「はべり」 かつ、 「巻名」の中の「夢のうき橋」を検索しました。 全部で 16 件です。 [夢のうき橋][360] 「そのわたりには、ただ近きころほひまで、人多う住みはべりけるを、今は、いとかすかにこそなりゆくめれ」などのたまひて、いますこし近くゐ寄りて、忍びやかに、「いと浮きたる心地もしはべる、また、尋ねきこえむにつけては、いかなりけることにかと心えず思されぬべきに、かたがた憚られはべれど、かの山里に、知るべき人の隠ろヘてはべるやうに聞きはべりしを。 [夢のうき橋][361] かばかり心えたまひてうかがひ尋ねたまはむに、隠れあるべきことにもあらず、なかなかあらがひ隠さむにあいなかるべし」などとばかり思ひえて、「いかなることにかはべりけむ。 [夢のうき橋][362] この月ごろ、うちうちにあやしみ思うたまふる人の御ことにや」とて、「かしこにはべる尼どもの、初瀬に願はべりて詣でて帰りける道に、宇治院といふ所にとどまりてはべりけるに、母の尼の労気にはかにおこりていたくなむわづらふ、と告げに、人の参うで来たりしかば、まかりむかひたりしに、まづあやしきことなむ」とささめきて、「親の死にかヘるをばさしおきてもてあつかひ嘆きてなむはべりし。 [夢のうき橋][362] この人も、亡くなりたまヘるさまながら、さすがに息は通ひておはしければ、昔物語に、魂殿に置きたりけむ人のたとひを思ひ出でて、さやうなることにやとめづらしがりはべりて、弟子ばらの中に験ある者どもを呼び寄せつつ、かはりがはりに加持せさせなどなむしはべりける。 [夢のうき橋][362] なにがしは、惜しむべき齢ならねど、母の旅の空にて病重きを、助けて念仏をも心乱れずせさせむと、仏を念じたてまつり思うたまヘしほどに、その人のありさまくはしうも見たまヘずなむはべりし。 [夢のうき橋][363] 助けて京に率てたてまつりて後も、三月ばかりは亡き人にてなむものしたまひけるを、なにがしが妹、故衛門督の北の方にてはべりしが尼になりてはべるなむ、一人持ちてはべりし女子を失ひて後、月日は多く隔てはべりしかど、悲しびたヘず嘆き思ひたまヘはべるに、同じ年のほどと見ゆる人の、かく容貌いとうるはしくきよらなるを見出でたてまつりて、観音の賜ヘる、とよろこび思ひて、この人いたづらになしたてまつらじとまどひ焦られて、泣く泣くいみじきことどもを申されしかば、後になむ、かの坂本にみづから下りはべりて、護身など仕まつりしに、やうやう生き出でて人となりたまヘりけれど、なほこの領じたりける物の身に離れぬ心地なむする、このあしき物の妨げをのがれて、後の世を思はんなど、悲しげにのたまふことどものはべりしかば、法師にては、勧めも申しつべきことにこそはとて、まことに出家せしめたてまつりてしにはべる。 [夢のうき橋][364] めづらしき事のさまにもあるを、世語にもしはべりぬべかりしかど、聞こえありてわづらはしかるべきことにもこそと、この老人どものとかく申して、この月ごろ音なくてはべりつるになむ」と申したまヘば、さてこそあなれ、とほの聞きて、かくまでも問ひ出でたまヘることなれど、むげに亡き人と思ひはてにし人を、さは、まことにあるにこそは、と思すほど、夢の心地してあさましければ、つつみもあヘず涙ぐまれたまひぬるを、僧都の恥づかしげなるに、かくまで見ゆべきことかは、と思ひ返して、つれなくもてなしたまへど、かく思しけることをこの世には亡き人と同じやうになしたることと、過ちしたる心地して罪深ければ、「あしき物に領ぜられたまひけむも、さるべき前の世の契りなり。 [夢のうき橋][364] ものはかなくて見つけそめては はべり しかど、また、いとかくまで落ちあふるべき際とは思ひたまヘざりしを。 [夢のうき橋][365] 親子の中の思ひ絶えず、悲しびにたヘで、とぶらひものしなどし はべり なんかし」などのたまひて、さて、「いと便なきしるべとは思すとも、かの坂本に下りたまヘ。 [夢のうき橋][366] その人とはなくて、ただ、尋ねきこゆる人なむある、とばかりの心を知らせたまヘ」とのたまヘば、「なにがし、このしるべにて、必ず罪え はべり なん。 [夢のうき橋][367] いはけなかりしより、思ふ心ざし深く はべる を、三条宮の心細げにて、頼もしげなき身ひとつをよすがに思したるが避りがたき絆におぼえ はべり て、かかづらひはべりつるほどに、おのづから位などいふことも高くなり、身のおきても心にかなひがたくなどして、思ひながら過ぎ はべる には、またえ避らぬことも数のみ添ひつつは過ぐせど、公私にのがれがたきことにつけてこそさも はべら め、さらでは、仏の制したまふ方のことを、わづかにも聞きおよばむことはいかであやまたじ、とつつしみて、心の中は聖に劣り はべら ぬものを。 [夢のうき橋][367] さらにあるまじきことに はべり。 [夢のうき橋][371] 事の心承りしに、あぢきなく、かヘりて臆し はべり てなむ、と姫君に聞こえたまヘ。 [夢のうき橋][373] 「常も、誇りかならずものしたまふ人柄なれど、いとうたて心憂し」など言ひて、僧都の御文見れば、今朝、ここに、大将殿のものしたまひて、御ありさま尋ね問ひたまふに、はじめよりありしやうくはしく聞こえ はべり ぬ。 [夢のうき橋][377] ただ、この御文を、人づてならで奉れとて はべり つる、いかで奉らむ」と言ヘば、「いとことわりなり。 [夢のうき橋][380] 主、その小君に物語すこし聞こえて、「物の怪にやおはすらん、例のさまに見えたまふをりなく、悩みわたりたまひて、御かたちも異になりたまヘるを、尋ねきこえたまふ人あらばいとわづらはしかるべきことと、見たてまつり嘆き はべり しもしるく、かくいとあはれに心苦しき御ことどもの はべり けるを、今なむいとかたじけなく思ひ はべる。

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浦島太郎:認知症コミュニケーションにおける〈時間感覚の相対論〉について

悔しう思さる る 品詞

末摘花 - 「源氏物語の世界」校訂本文差分• 「源氏物語の世界」校訂本文差分 6. 末摘花 思へどもなほ飽かざりし夕顔の露に後れし心地を、年月経れど、思し忘れず、ここもかしこも、うちとけぬ限りの、気色ばみ心深きかたの御いどましさに、け近くうちとけたりしあはれに、似るものなう恋しく思ほえたまふ。 いかで、ことことしきおぼえはなく、いとらうたげならむ人の、つつましきことなからむ、見つけてしがなと、こりずまに思しわたれば、すこしゆゑづきて聞こゆるわたりは、御耳とどめたまはぬ隈なきに、さてもやと、思し寄るばかりのけはひあるあたりにこそ、一行をもほのめかしたまふめるに、なびききこえずもて離れたるは、をさをさあるまじきぞ、いと目馴れたるや。 つれなう心強きは、たとしへなう情けおくるるまめやかさなど、あまりもののほど知らぬやうに、さてしも過ぐしはてず、名残なくくづほれて、なほなほしき方に定まりなどするもあれば、のたまひさしつるも多かりける。 かの空蝉を、ものの折々には、ねたう思し出づ。 荻の葉も、さりぬべき風のたよりある時は、おどろかしたまふ折もあるべし。 火影の乱れたりしさまは、またさやうにても見まほしく思す。 おほかた、名残なきもの忘れをぞ、えしたまはざりける。 左衛門の乳母とて、大弐のさしつぎに思いたるが女、大輔の命婦とて、内裏にさぶらふ、わかむどほりの兵部大輔なる女なりけり。 いといたう色好める若人にてありけるを、君も召し使ひなどしたまふ。 母は筑前守の妻にて、下りにければ、父君のもとを里にて行き通ふ。 故常陸親王の、末にまうけていみじうかなしうかしづきたまひし御女、心細くて残りゐたるを、もののついでに語りきこえければ、あはれのことやとて、御心とどめて問ひ聞きたまふ。 「心ばへ容貌など、深き方はえ知りはべらず。 かいひそめ、人疎うもてなしたまへば、さべき宵など、物越しにてぞ、語らひはべる。 琴をぞなつかしき語らひ人と思へる」と聞こゆれば、 「三つの友にて、今一種やうたてあらむ」とて、「我に聞かせよ。 父親王の、さやうの方にいとよしづきてものしたまうければ、おしなべての手にはあらじ、となむ思ふ」とのたまへば、 「さやうに聞こし召すばかりにはあらずやはべらむ」 と言へど、御心とまるばかり聞こえなすを、 「いたうけしきばましや。 このころのおぼろ月夜に忍びてものせむ。 まかでよ」 とのたまへば、わづらはしと思へど、内裏わたりものどやかなる春のつれづれにまかでぬ。 父の大輔の君は他にぞ住みける。 ここには時々ぞ通ひける。 命婦は、継母のあたりは住みもつかず、姫君の御あたりをむつびて、ここには来るなりけり。 のたまひしもしるく、十六夜の月をかしきほどにおはしたり。 「いと、かたはらいたきわざかな。 ものの音澄むべき夜のさまにもはべらざめるに」と聞こゆれど、 「なほ、あなたにわたりて、ただ一声も、もよほしきこえよ。 むなしくて帰らむが、ねたかるべきを」 とのたまへば、うちとけたる住み処に据ゑたてまつりて、うしろめたうかたじけなしと思へど、寝殿に参りたれば、まだ格子もさながら、梅の香をかしきを見出だしてものしたまふ。 よき折かな、と思ひて、 「御琴の音、いかにまさりはべらむと、思ひたまへらるる夜のけしきに、誘はれはべりてなむ。 心あわたたしき出で入りに、えうけたまはらぬこそ口惜しけれ」と言へば、 「聞き知る人こそあなれ。 百敷に行き交ふ人の聞くばかりやは」 とて、召し寄するも、あいなう、いかが聞きたまはむと、胸つぶる。 ほのかに掻き鳴らしたまふ、をかしう聞こゆ。 何ばかり深き手ならねど、ものの音がらの筋ことなるものなれば、聞きにくくも思されず。 「いといたう荒れわたりて寂しき所に、さばかりの人の、古めかしう、ところせく、かしづき据ゑたりけむ名残なく、いかに思ほし残すことなからむ。 かやうの所にこそは、昔物語にもあはれなることどもありけれ」など思ひ続けても、ものや言ひ寄らまし、と思せど、うちつけにや思さむと、心恥づかしくて、やすらひたまふ。 命婦、かどある者にて、いたう耳ならさせたてまつらじ、と思ひければ、 「曇りがちにはべるめり。 客人の来むとはべりつる、いとひ顔にもこそ。 いま心のどかにを。 御格子参りなむ」 とて、いたうもそそのかさで帰りたれば、 「なかなかなるほどにても止みぬるかな。 もの聞き分くほどにもあらで、ねたう」 とのたまふけしき、をかしと思したり。 「同じくは、け近きほどの立ち聞きせさせよ」 とのたまへど、「心にくくて」と思へば、 「いでや、いとかすかなるありさまに思ひ消えて、心苦しげにものしたまふめるを、うしろめたきさまにや」 と言へば、「げに、さもあること。 にはかに我も人もうちとけて語らふべき人の際は、際とこそあれ」など、あはれに思さるる人の御ほどなれば、 「なほ、さやうのけしきをほのめかせ」と、語らひたまふ。 また契りたまへる方やあらむ、いと忍びて帰りたまふ。 「主上の、まめにおはしますと、もてなやみきこえさせたまふこそ、をかしう思うたまへらるる折々はべれ。 かやうの御やつれ姿を、いかでかは御覧じつけむ」 と聞こゆれば、たち返り、うち笑ひて、 「異人の言はむやうに、咎なあらはされそ。 これをあだあだしきふるまひと言はば、女のありさま苦しからむ」 とのたまへば、「あまり色めいたりと思して、折々かうのたまふを、恥づかし」と思ひて、ものも言はず。 寝殿の方に、人のけはひ聞くやうもやと思して、やをら立ち退きたまふ。 透垣のただすこし折れ残りたる隠れの方に、立ち寄りたまふに、もとより立てる男ありけり。 「誰れならむ。 心かけたる好き者ありけり」と思して、蔭につきて立ち隠れたまへば、頭中将なりけり。 この夕つ方、内裏よりもろともにまかでたまひける、やがて大殿にも寄らず、二条院にもあらで、引き別れたまひけるを、いづちならむと、ただならで、我も行く方あれど、後につきてうかがひけり。 あやしき馬に、狩衣姿のないがしろにて来ければ、え知りたまはぬに、さすがに、かう異方に入りたまひぬれば、心も得ず思ひけるほどに、ものの音に聞きついて立てるに、帰りや出でたまふと、下待つなりけり。 君は、誰ともえ見分きたまはで、我と知られじと、抜き足に歩みたまふに、ふと寄りて、 「ふり捨てさせたまへるつらさに、御送り仕うまつりつるは。 もろともに大内山は出でつれど 入る方見せぬいさよひの月」 と恨むるもねたけれど、この君と見たまふ、すこしをかしうなりぬ。 「人の思ひよらぬことよ」と憎む憎む、 「里わかぬかげをば見れどゆく月の いるさの山を誰れか尋ぬる」 「かう慕ひありかば、いかにせさせたまはむ」と聞こえたまふ。 「まことは、かやうの御歩きには、随身からこそはかばかしきこともあるべけれ。 後らさせたまはでこそあらめ。 やつれたる御歩きは、軽々しき事も出で来なむ」 と と、おし返しいさめたてまつる。 かうのみ見つけらるるを、ねたしと思せど、かの撫子はえ尋ね知らぬを、重き功に、御心のうちに思し出づ。 おのおの契れる方にも、あまえて、え行き別れたまはず、一つ車に乗りて、月のをかしきほどに雲隠れたる道のほど、笛吹き合せて大殿におはしぬ。 前駆なども追はせたまはず、忍び入りて、人見ぬ廊に御直衣ども召して、着替へたまふ。 つれなう、今来るやうにて、御笛ども吹きすさびておはすれば、大臣、例の聞き過ぐしたまはで、高麗笛取り出でたまへり。 いと上手におはすれば、いとおもしろう吹きたまふ。 御琴召して、内にも、この方に心得たる人びとに弾かせたまふ。 中務の君、わざと琵琶は弾けど、頭の君心かけたるをもて離れて、ただこのたまさかなる御けしきのなつかしきをば、え背ききこえぬに、おのづから隠れなくて、大宮などもよろしからず思しなりたれば、もの思はしく、はしたなき心地して、すさまじげに寄り臥したり。 絶えて見たてまつらぬ所に、かけ離れなむも、さすがに心細く思ひ乱れたり。 君たちは、ありつる琴の音を思し出でて、あはれげなりつる住まひのさまなども、やう変へてをかしう思ひつづけ、「あらましごとに、いとをかしうらうたき人の、さて年月を重ねゐたらむ時、見そめて、いみじう心苦しくは、人にももて騒がるばかりや、わが心もさま悪しからむ」などさへ、中将は思ひけり。 この君のかう気色ばみありきたまふを、「まさに、さては、過ぐしたまひてむや」と、なまねたう危ふがりけり。 その後、こなたかなたより、文などやりたまふべし。 いづれも返り事見えず、おぼつかなく心やましきに、「あまりうたてもあるかな。 さやうなる住まひする人は、もの思ひ知りたるけしき、はかなき木草、空のけしきにつけても、とりなしなどして、心ばせ推し測らるる折々あらむこそあはれなるべけれ、重しとても、いとかうあまり埋もれたらむは、心づきなく、悪びたり」と、中将は、まいて心焦られしけり。 例の、隔てきこえたまはぬ心にて、 「しかしかの返り事は見たまふや。 試みにかすめたりしこそ、はしたなくて止みにしか」 と、憂ふれば、「さればよ、言ひ寄りにけるをや」と、ほほ笑まれて、 「いさ、見むとしも思はねばにや、見るとしもなし」 と、答へたまふを、「人わきしける」と思ふに、いとねたし。 君は、深うしも思はぬことの、かう情けなきを、すさまじく思ひなりたまひにしかど、かうこの中将の言ひありきけるを、「言多く言ひなれたらむ方にぞ靡かむかし。 したり顔にて、もとのことを思ひ放ちたらむけしきこそ、憂はしかるべけれ」と思して、命婦をまめやかに語らひたまふ。 「おぼつかなく、もて離れたる御けしきなむ、いと心憂き。 好き好きしき方に疑ひ寄せたまふにこそあらめ。 さりとも、短き心ばへつかはぬものを。 人の心ののどやかなることなくて、思はずにのみあるになむ、おのづからわがあやまちにもなりぬべき。 心のどかにて、親はらからのもてあつかひ恨むるもなう、心やすからむ人は、なかなかなむらうたかるべきを」とのたまへば、 「いでや、さやうにをかしき方の御笠宿りには、えしもやと、つきなげにこそ見えはべれ。 ひとへにものづつみし、ひき入りたる方はしも、ありがたうものしたまふ人になむ」 と、見るありさま語りきこゆ。 「らうらうじう、かどめきたる心はなきなめり。 いと子めかしうおほどかならむこそ、らうたくはあるべけれ」と思し忘れず、のたまふ。 瘧 病みにわづらひたまひ、人知れぬもの思ひの紛れも、御心のいとまなきやうにて、春夏過ぎぬ。 秋のころほひ、静かに思しつづけて、かの砧の音も耳につきて聞きにくかりしさへ、恋しう思し出でらるるままに、常陸宮にはしばしば聞こえたまへど、なほおぼつかなうのみあれば、世づかず、心やましう、負けては止まじの御心さへ添ひて、命婦を責めたまふ。 「いかなるやうぞ。 いとかかる事こそ、まだ知らね」 と、いとものしと思ひてのたまへば、いとほしと思ひて、 「もて離れて、似げなき御事とも、おもむけはべらず。 ただ、おほかたの御ものづつみのわりなきに、手をえさし出でたまはぬとなむ見たまふる」と聞こゆれば、 「それこそは世づかぬ事なれ。 物思ひ知るまじきほど、独り身をえ心にまかせぬほどこそ、ことわりなれ、何事も思ひしづまりたまへらむ、と思ふこそ。 そこはかとなく、つれづれに心細うのみおぼゆるを、同じ心に答へたまはむは、願ひかなふ心地なむすべき。 何やかやと、世づける筋ならで、その荒れたる簀子にたたずままほしきなり。 いとうたて心得ぬ心地するを、かの御許しなくとも、たばかれかし。 心苛られし、うたてあるもてなしには、よもあらじ」 など、語らひたまふ。 なほ世にある人のありさまを、おほかたなるやうにて聞き集め、耳とどめたまふ癖のつきたまへるを、さうざうしき宵居など、はかなきついでに、さる人こそとばかり聞こえ出でたりしに、かくわざとがましうのたまひわたれば、「なまわづらはしく、女君の御ありさまも、世づかはしく、よしめきなどもあらぬを、なかなかなる導きに、いとほしき事や見えむなむ」と思ひけれど、君のかうまめやかにのたまふに、「聞き入れざらむも、ひがひがしかるべし。 父親王おはしける折にだに、旧りにたるあたりとて、おとなひきこゆる人もなかりけるを、まして、今は浅茅分くる人も跡絶えたるに」。 かく世にめづらしき御けはひの、漏りにほひくるをば、なま女ばらなども笑み曲げて、「なほ聞こえたまへ」と、そそのかしたてまつれど、あさましうものづつみしたまふ心にて、ひたぶるに見も入れたまはぬなりけり。 命婦は、「さらば、さりぬべからむ折に、物越しに聞こえたまはむほど、御心につかずは、さても止みねかし。 また、さるべきにて、仮にもおはし通はむを、とがめたまふべき人なし」など、あだめきたるはやり心はうち思ひて、父君にも、かかる事なども言はざりけり。 八月二十余日、宵過ぐるまで待たるる月の心もとなきに、星の光ばかりさやけく、松の梢吹く風の音心細くて、いにしへの事語り出でて、うち泣きなどしたまふ。 「いとよき折かな」と思ひて、御消息や聞こえつらむ、例のいと忍びておはしたり。 月やうやう出でて、荒れたる籬のほどうとましくうち眺めたまふに、琴そそのかされて、ほのかにかき鳴らしたまふほど、けしうはあらず。 「すこし、け近う今めきたる気をつけばや」とぞ、乱れたる心には、心もとなく思ひゐたる。 人目しなき所なれば、心やすく入りたまふ。 命婦を呼ばせたまふ。 今しもおどろき顔に、 「いとかたはらいたきわざかな。 しかしかこそ、おはしましたなれ。 常に、かう恨みきこえたまふを、心にかなはぬ由をのみ、いなびきこえはべれば、『みづからことわりも聞こえ知らせむ』と、のたまひわたるなり。 いかが聞こえ返さむ。 なみなみのたはやすき御ふるまひならねば、心苦しきを。 物越しにて、聞こえたまはむこと、聞こしめせ」 と言へば、いと恥づかしと思ひて、 「人にもの聞こえむやうも知らぬを」 とて、奥ざまへゐざり入りたまふさま、いとうひうひしげなり。 うち笑ひて、 「いと若々しうおはしますこそ、心苦しけれ。 限りなき人も、親などおはしてあつかひ後見きこえたまふほどこそ、若びたまふもことわりなれ、かばかり心細き御ありさまに、なほ世を尽きせず思し憚るは、つきなうこそ」と教へきこゆ。 さすがに、人の言ふことは強うもいなびぬ御心にて、 「答へきこえで、ただ聞け、とあらば。 格子など鎖してはありなむ」とのたまふ。 「簀子などは便なうはべりなむ。 おしたちて、あはあはしき御心などは、よも」 など、いとよく言ひなして、二間の際なる障子、手づからいと強く鎖して、御茵うち置きひきつくろふ。 いとつつましげに思したれど、かやうの人にもの言ふらむ心ばへなども、夢に知りたまはざりければ、命婦のかう言ふを、あるやうこそはと思ひてものしたまふ。 乳母だつ老い人などは、曹司に入り臥して、夕まどひしたるほどなり。 若き人、二、三人あるは、世にめでられたまふ御ありさまを、ゆかしきものに思ひきこえて、心げさうしあへり。 よろしき御衣たてまつり変へ、つくろひきこゆれば、正身は、何の心げさうもなくておはす。 男は、いと尽きせぬ御さまを、うち忍び用意したまへる御けはひ、いみじうなまめきて、「見知らむ人にこそ見せめ、栄えあるまじきわたりを、あな、いとほし」と、命婦は思へど、ただおほどかにものしたまふをぞ、「うしろやすう、さし過ぎたることは見えたてまつりたまはじ」と思ひける。 「わが常に責められたてまつる罪さりごとに、心苦しき人の御もの思ひや出でこむ」など、やすからず思ひゐたり。 君は、人の御ほどを思せば、「されくつがへる今様のよしばみよりは、こよなう奥ゆかしう」と思さるるに、いたうそそのかされて、ゐざり寄りたまへるけはひ、忍びやかに、衣被の香いとなつかしう薫り出でて、おほどかなるを、「さればよ」と思す。 年ごろ思ひわたるさまなど、いとよくのたまひつづくれど、まして近き御答へは絶えてなし。 「わりなのわざや」と、うち嘆きたまふ。 「いくそたび君がしじまにまけぬらむ ものな言ひそと言はぬ頼みに のたまひも捨ててよかし。 玉だすき苦し」 とのたまふ。 女君の御乳母子、侍従とて、はやりかなる若人、「いと心もとなう、かたはらいたし」と思ひて、さし寄りて、聞こゆ。 「鐘つきてとぢめむことはさすがにて 答へまうきぞかつはあやなき」 いと若びたる声の、ことに重りかならぬを、人伝てにはあらぬやうに聞こえなせば、「ほどよりはあまえて」と聞きたまへど、 「めづらしきが、なかなか口ふたがるわざかな 言はぬをも言ふにまさると知りながら おしこめたるは苦しかりけり」 何やかやと、はかなきことなれど、をかしきさまにも、まめやかにものたまへど、何のかひなし。 「いとかかるも、さまかはり、思ふ方ことにものしたまふ人にや」と、ねたくて、やをら押し開けて入りたまひにけり。 命婦、「あな、うたて。 たゆめたまへる」と、いとほしければ、知らず顔にて、わが方へ往にけり。 この若人ども、はた、世にたぐひなき御ありさまの音聞きに、罪ゆるしきこえて、おどろおどろしうも嘆かれず、ただ、思ひもよらずにはかにて、さる御心もなきをぞ、思ひける。 正身は、ただ我にもあらず、恥づかしくつつましきよりほかのことまたなければ、「今はかかるぞあはれなるかし、まだ世馴れぬ人、うちかしづかれたる」と、見ゆるしたまふものから、心得ず、なまいとほしとおぼゆる御さまなり。 何ごとにつけてかは御心のとまらむ、うちうめかれて、夜深う出でたまひぬ。 命婦は、「いかならむ」と、目覚めて、聞き臥せりけれど、「知り顔ならじ」とて、「御送りに」とも、声づくらず。 君も、やをら忍びて出でたまひにけり。 二条院におはして、うち臥したまひても、「なほ思ふにかなひがたき世にこそ」と、思しつづけて、軽らかならぬ人の御ほどを、心苦しとぞ思しける。 思ひ乱れておはするに、頭中将おはして、 「こよなき御朝寝かな。 ゆゑあらむかしとこそ、思ひたまへらるれ」 と言へば、起き上がりたまひて、 「心やすき独り寝の床にて、ゆるびにけりや。 内裏よりか」 とのたまへば、 「しか。 まかではべるままなり。 朱雀院の行幸、今日なむ、楽人、舞人定めらるべきよし、昨夜うけたまはりしを、大臣にも伝へ申さむとてなむ、まかではべる。 やがて帰り参りぬべうはべり」 と、いそがしげなれば、 「さらば、もろともに」 とて、御粥、強飯召して、客人にも参りたまひて、引き続けたれど、一つにたてまつりて、 「なほ、いとねぶたげなり」 と、とがめ出でつつ、 「隠いたまふこと多かり」 とぞ、恨みきこえたまふ。 事ども多く定めらるる日にて、内裏にさぶらひ暮らしたまひつ。 かしこには、文をだにと、いとほしく思し出でて、夕つ方ぞありける。 雨降り出でて、ところせくもあるに、笠宿りせむと、はた、思されずやありけむ。 かしこには、待つほど過ぎて、命婦も、「いといとほしき御さまかな」と、心憂く思ひけり。 正身は、御心のうちに恥づかしう思ひたまひて、今朝の御文の暮れぬれど、なかなか、咎とも思ひわきたまはざりけり。 「夕霧の晴るるけしきもまだ見ぬに いぶせさそふる宵の雨かな 雲間待ち出でむほど、いかに心もとなう」 とあり。 おはしますまじき御けしきを、人びと胸つぶれて思へど、 「なほ、聞こえさせたまへ」 と、そそのかしあへれど、いとど思ひ乱れたまへるほどにて、え型のやうにも続けたまはねば、「夜更けぬ」とて、侍従ぞ、例の教へきこゆる。 「晴れぬ夜の月待つ里を思ひやれ 同じ心に眺めせずとも」 口々に責められて、紫の紙の、年経にければ灰おくれ古めいたるに、手はさすがに文字強う、中さだの筋にて、上下等しく書いたまへり。 見るかひなううち置きたまふ。 いかに思ふらむと思ひやるも、安からず。 「かかることを、悔しなどは言ふにやあらむ。 さりとていかがはせむ。 我は、さりとも、心長く見果ててむ」と、思しなす御心を知らねば、かしこにはいみじうぞ嘆いたまひける。 大臣、夜に入りてまかでたまふに、引かれたてまつりて、大殿におはしましぬ。 行幸のことを興ありと思ほして、君たち集りて、のたまひ、おのおの舞ども習ひたまふを、そのころのことにて過ぎゆく。 ものの音ども、常よりも耳かしかましくて、かたがたいどみつつ、例の御遊びならず、大篳篥、尺八の笛などの大声を吹き上げつつ、太鼓をさへ高欄のもとにまろばし寄せて、手づからうち鳴らし、遊びおはさうず。 御いとまなきやうにて、せちに思す所ばかりにこそ、盗まはれたまへれ、かのわたりには、いとおぼつかなくて、秋暮れ果てぬ。 なほ頼み来しかひなくて過ぎゆく。 行幸近くなりて、試楽などののしるころぞ、命婦は参れる。 「いかにぞ」など、問ひたまひて、いとほしとは思したり。 ありさま聞こえて、 「いとかう、もて離れたる御心ばへは、見たまふる人さへ、心苦しく」 など、泣きぬばかり思へり。 「心にくくもてなして止みなむと思へりしことを、くたいてける、心もなくこの人の思ふらむ」をさへ思す。 正身の、ものは言はで、思しうづもれたまふらむさま、思ひやりたまふも、いとほしければ、 「いとまなきほどぞや。 わりなし」と、うち嘆いたまひて、「もの思ひ知らぬやうなる心ざまを、懲らさむと思ふぞかし」 と、ほほ笑みたまへる、若ううつくしげなれば、我もうち笑まるる心地して、「わりなの、人に恨みられたまふ御齢や。 思ひやり少なう、御心のままならむも、ことわり」と思ふ。 この御いそぎのほど過ぐしてぞ、時々おはしける。 かの紫のゆかり、尋ねとりたまひて、そのうつくしみに心入りたまひて、六条わたりにだに、離れまさりたまふめれば、まして荒れたる宿は、あはれに思しおこたらずながら、もの憂きぞ、わりなかりけると、ところせき御もの恥ぢを見あらはさむの御心も、ことになうて過ぎゆくを、またうちかへし、「見まさりするやうもありかし。 手さぐりのたどたどしきに、あやしう、心得ぬこともあるにや。 見てしがな」と思ほせど、けざやかにとりなさむもまばゆし。 うちとけたる宵居のほど、やをら入りたまひて、格子のはさまより見たまひけり。 されど、みづからは見えたまふべくもあらず。 几帳など、いたく損なはれたるものから、年経にける立ちど変はらず、おしやりなど乱れねば、心もとなくて、御達四、五人ゐたり。 御台、秘色やうの唐土のものなれど、人悪ろきに、何のくさはひもなくあはれげなる、まかでて人びと食ふ。 隅の間ばかりにぞ、いと寒げなる女ばら、白き衣のいひしらず煤けたるに、きたなげなる褶引き結ひつけたる腰つき、かたくなしげなり。 さすがに櫛おし垂れて挿したる額つき、内教坊、内侍所のほどに、かかる者どもあるはやと、をかし。 かけても、人のあたりに近うふるまふ者とも知りたまはざりけり。 「あはれ、さも寒き年かな。 命長ければ、かかる世にもあふものなりけり」 とて、うち泣くもあり。 「故宮おはしましし世を、などてからしと思ひけむ。 かく頼みなくても過ぐるものなりけり」 とて、飛び立ちぬべくふるふもあり。 さまざまに人悪ろきことどもを、愁へあへるを聞きたまふも、かたはらいたければ、たちのきて、ただ今おはするやうにて、うちたたきたまふ。 「そそや」など言ひて、火とり直し、格子放ちて入れたてまつる。 侍従は、斎院に参り通ふ若人にて、この頃はなかりけり。 いよいよあやしうひなびたる限りにて、見ならはぬ心地ぞする。 いとど、愁ふなりつる雪、かきたれいみじう降りけり。 空の気色はげしう、風吹き荒れて、大殿油消えにけるを、ともしつくる人もなし。 かの、ものに襲はれし折思し出でられて、荒れたるさまは劣らざめるを、ほどの狭う、人気のすこしあるなどに慰めたれど、すごう、うたていざとき心地する夜のさまなり。 をかしうもあはれにも、やうかへて、心とまりぬべきありさまを、いと埋れすくよかにて、何の栄えなきをぞ、口惜しう思す。 からうして明けぬるけしきなれば、格子手づから上げたまひて、前の前栽の雪を見たまふ。 踏みあけたる跡もなく、はるばると荒れわたりて、いみじう寂しげなるに、ふり出でて行かむこともあはれにて、 「をかしきほどの空も見たまへ。 尽きせぬ御心の隔てこそ、わりなけれ」 と、恨みきこえたまふ。 まだほの暗けれど、雪の光にいとどきよらに若う見えたまふを、老い人ども笑みさかえて見たてまつる。 「はや出でさせたまへ。 あぢきなし。 心うつくしきこそ」 など教へきこゆれば、さすがに、人の聞こゆることをえいなびたまはぬ御心にて、とかう引きつくろひて、ゐざり出でたまへり。 見ぬやうにて、外の方を眺めたまへれど、後目はただならず。 「いかにぞ、うちとけまさりの、いささかもあらばうれしからむ」と思すも、あながちなる御心なりや。 まづ、居丈の高く、を背長に見えたまふに、「さればよ」と、胸つぶれぬ。 うちつぎて、あなかたはと見ゆるものは、鼻なりけり。 ふと目ぞとまる。 普賢菩薩の乗物とおぼゆ。 あさましう高うのびらかに、先の方すこし垂りて色づきたること、ことのほかにうたてあり。 色は雪恥づかしく白うて真青に、額つきこよなうはれたるに、なほ下がちなる面やうは、おほかたおどろおどろしう長きなるべし。 痩せたまへること、いとほしげにさらぼひて、肩のほどなどは、いたげなるまで衣の上まで見ゆ。 「何に残りなう見あらはしつらむ」と思ふものから、めづらしきさまのしたれば、さすがに、うち見やられたまふ。 頭つき、髪のかかりはしも、うつくしげにめでたしと思ひきこゆる人びとにも、をさをさ劣るまじう、袿の裾にたまりて引かれたるほど、一尺ばかりあまりたらむと見ゆ。 着たまへるものどもをさへ言ひたつるも、もの言ひさがなきやうなれど、昔物語にも、人の御装束をこそまづ言ひためれ。 聴し色のわりなう上白みたる一襲、なごりなう黒き袿重ねて、表着には黒貂の皮衣、いときよらに香ばしきを着たまへり。 古代のゆゑづきたる御装束なれど、なほ若やかなる女の御よそひには、似げなうおどろおどろしきこと、いともてはやされたり。 されど、げに、この皮なうて、はた、寒からましと見ゆる御顔ざまなるを、心苦しと見たまふ。 何ごとも言はれたまはず、我さへ口閉ぢたる心地したまへど、例のしじまも心みむと、とかう聞こえたまふに、いたう恥ぢらひて、口おほひしたまへるさへ、ひなび古めかしう、ことことしく、儀式官の練り出でたる臂もちおぼえて、さすがにうち笑みたまへるけしき、はしたなうすずろびたり。 いとほしくあはれにて、いとど急ぎ出でたまふ。 「頼もしき人なき御ありさまを、見そめたる人には、疎からず思ひむつびたまはむこそ、本意ある心地すべけれ。 ゆるしなき御けしきなれば、つらう」など、ことつけて、 「朝日さす軒の垂氷は解けながら などかつららの結ぼほるらむ」 とのたまへど、ただ「むむ」とうち笑ひて、いと口重げなるもいとほしければ、出でたまひぬ。 御車寄せたる中門の、いといたうゆがみよろぼひて、夜目にこそ、しるきながらもよろづ隠ろへたること多かりけれ、いとあはれにさびしく荒れまどへるに、松の雪のみ暖かげに降り積める、山里の心地して、ものあはれなるを、「かの人びとの言ひし葎の門は、かうやうなる所なりけむかし。 げに、心苦しくらうたげならむ人をここに据ゑて、うしろめたう恋しと思はばや。 あるまじきもの思ひは、それに紛れなむかし」と、「思ふやうなる住みかに合はぬ御ありさまは、取るべきかたなし」と思ひながら、「我ならぬ人は、まして見忍びてむや。 わがかうて見馴れけるは、故親王のうしろめたしとたぐへ置きたまひけむ魂のしるべなめり」とぞ思さるる。 橘の木の埋もれたる、御随身召して払はせたまふ。 うらやみ顔に、松の木のおのれ起きかへりて、さとこぼるる雪も、「名に立つ末の」と見ゆるなどを、「いと深からずとも、なだらかなるほどにあひしらはむ人もがな」と見たまふ。 御車出づべき門は、まだ開けざりければ、鍵の預かり尋ね出でたれば、翁のいといみじきぞ出で来たる。 娘にや、孫にや、はしたなる大きさの女の、衣は雪にあひて煤けまどひ、寒しと思へるけしき、深うて、あやしきものに火をただほのかに入れて袖ぐくみに持たり。 翁、門をえ開けやらねば、寄りてひき助くる、いとかたくななり。 御供の人、寄りてぞ開けつる。 「降りにける頭の雪を見る人も 劣らず濡らす朝の袖かな 『幼き者は形蔽れず』」 とうち誦じたまひても、鼻の色に出でて、いと寒しと見えつる御面影、ふと思ひ出でられて、ほほ笑まれたまふ。 「頭中将に、これを見せたらむ時、いかなることをよそへ言はむ、常にうかがひ来れば、今見つけられなむ」と、術なう思す。 世の常なるほどの、異なることなさならば、思ひ捨てても止みぬべきを、さだかに見たまひて後は、なかなかあはれにいみじくて、まめやかなるさまに、常に訪れたまふ。 黒貂の皮ならぬ、絹、綾、綿など、老い人どもの着るべきもののたぐひ、かの翁のためまで、上下思しやりてたてまつりたまふ。 かやうのまめやかごとも恥づかしげならぬを、心やすく、「さる方の後見にて育まむ」と思ほしとりて、さまことに、さならぬうちとけわざもしたまひけり。 「かの空蝉の、うちとけたりし宵の側目には、いと悪ろかりし容貌ざまなれど、もてなしに隠されて、口惜しうはあらざりきかし。 劣るべきほどの人なりやは。 げに品にもよらぬわざなりけり。 心ばせのなだらかに、ねたげなりしを、負けて止みにしかな」と、ものの折ごとには思し出づ。 年も暮れぬ。 内裏の宿直所におはしますに、大輔の命婦参れり。 御梳櫛などには、懸想だつ筋なく、心やすきものの、さすがにのたまひたはぶれなどして、使ひならしたまへれば、召しなき時も、聞こゆべき事ある折は、参う上りけり。 「あやしきことのはべるを、聞こえさせざらむもひがひがしう、思ひたまへわづらひて」 と、ほほ笑みて聞こえやらぬを、 「何ざまのことぞ。 我にはつつむことあらじと、なむ思ふ」とのたまへば、 「いかがは。 みづからの愁へは、かしこくとも、まづこそは。 これは、いと聞こえさせにくくなむ」 と、いたう言籠めたれば、 「例の、艶なる」と憎みたまふ。 「かの宮よりはべる御文」とて、取り出でたり。 「まして、これは取り隠すべきことかは」 とて、取りたまふも、胸つぶる。 陸奥紙の厚肥えたるに、匂ひばかりは深うしめたまへり。 いとよう書きおほせたり。 歌も、 「唐衣君が心のつらければ 袂はかくぞそぼちつつのみ」 心得ずうちかたぶきたまへるに、包みに、衣筥の重りかに古代なるうち置きて、おし出でたり。 「これを、いかでかは、かたはらいたく思ひたまへざらむ。 されど、朔日の御よそひとて、わざとはべるめるを、はしたなうはえ返しはべらず。 ひとり引き籠めはべらむも、人の御心違ひはべるべければ、御覧ぜさせてこそは」と聞こゆれば、 「引き籠められなむは、からかりなまし。 袖まきほさむ人もなき身にいとうれしき心ざしにこそは」 とのたまひて、ことにもの言はれたまはず。 「さても、あさましの口つきや。 これこそは手づからの御ことの限りなめれ。 侍従こそとり直すべかめれ。 また、筆のしりとる博士ぞなかべき」と、言ふかひなく思す。 心を尽くして詠み出でたまひつらむほどを思すに、 「いともかしこき方とは、これをも言ふべかりけり」 と、ほほ笑みて見たまふを、命婦、面赤みて見たてまつる。 今様色の、えゆるすまじく艶なう古めきたる直衣の、裏表ひとしうこまやかなる、いとなほなほしう、つまづまぞ見えたる。 「あさまし」と思すに、この文をひろげながら、端に手習ひすさびたまふを、側目に見れば、 「なつかしき色ともなしに何にこの すゑつむ花を袖に触れけむ 色濃き花と見しかども」 など、書きけがしたまふ。 花のとがめを、なほあるやうあらむと、思ひ合はする折々の、月影などを、いとほしきものから、をかしう思ひなりぬ。 「紅のひと花衣うすくとも ひたすら朽す名をし立てずは 心苦しの世や」 と、いといたう馴れてひとりごつを、よきにはあらねど、「かうやうのかいなでにだにあらましかば」と、返す返す口惜し。 人のほどの心苦しきに、名の朽ちなむはさすがなり。 人びと参れば、 「取り隠さむや。 かかるわざは人のするものにやあらむ」 と、うちうめきたまふ。 「何に御覧ぜさせつらむ。 我さへ心なきやうに」と、いと恥づかしくて、やをら下りぬ。 またの日、上にさぶらへば、台盤所にさしのぞきたまひて、 「くはや。 昨日の返り事。 あやしく心ばみ過ぐさるる」 とて、投げたまへり。 女房たち、何ごとならむと、ゆかしがる。 「ただ梅の花の色のごと、三笠の山のをとめをば捨てて」 と、歌ひすさびて出でたまひぬるを、命婦は「いとをかし」と思ふ。 心知らぬ人びとは、 「なぞ、御ひとりゑみは」と、とがめあへり。 「あらず。 寒き霜朝に、掻練好める花の色あひや見えつらむ。 御つづしり歌のいとほしき」と言へば、 「あながちなる御ことかな。 このなかには、にほへる鼻もなかめり」 「左近の命婦、肥後の采女や混じらひつらむ」 など、心も得ず言ひしろふ。 御返りたてまつりたれば、宮には、女房つどひて、見めでけり。 「逢はぬ夜をへだつるなかの衣手に 重ねていとど見もし見よとや」 白き紙に、捨て書いたまへるしもぞ、なかなかをかしげなる。 晦日の日、夕つ方、かの御衣筥に、「御料」とて、人のたてまつれる御衣一領、葡萄染の織物の御衣、また山吹か何ぞ、いろいろ見えて、命婦ぞたてまつりたる。 「ありし色あひを悪ろしとや見たまひけむ」と思ひ知らるれど、「かれはた、紅の重々しかりしをや。 さりとも消えじ」と、ねび人どもは定むる。 「御歌も、これよりのは、道理聞こえて、したたかにこそあれ」 「御返りは、ただをかしき方にこそ」 など、口々に言ふ。 姫君も、おぼろけならでし出でたまひつるわざなれば、ものに書きつけて置きたまへりけり。 朔日のほど過ぎて、今年、男踏歌あるべければ、例の、所々遊びののしりたまふに、もの騒がしけれど、寂しき所のあはれに思しやらるれば、七日の日の節会果てて、夜に入りて、御前よりまかでたまひけるを、御宿直所にやがてとまりたまひぬるやうにて、夜更かしておはしたり。 例のありさまよりは、けはひうちそよめき、世づいたり。 君も、すこしたをやぎたまへるけしきもてつけたまへり。 「いかにぞ、改めてひき変へたらむ時」とぞ、思しつづけらるる。 日さし出づるほどに、やすらひなして、出でたまふ。 東の妻戸、おし開けたれば、向ひたる廊の、上もなくあばれたれば、日の脚、ほどなくさし入りて、雪すこし降りたる光に、いとけざやかに見入れらる。 御直衣などたてまつるを見出だして、すこしさし出でて、かたはら臥したまへる頭つき、こぼれ出でたるほど、いとめでたし。 「生ひなほりを見出でたらむ時」と思されて、格子引き上げたまへり。 いとほしかりしもの懲りに、上げも果てたまはで、脇息をおし寄せて、うちかけて、御鬢ぐきのしどけなきをつくろひたまふ。 わりなう古めきたる鏡台の、唐櫛笥、掻上の筥など、取り出でたり。 さすがに、男の御具さへほのぼのあるを、されてをかしと見たまふ。 女の御装束、「今日は世づきたり」と見ゆるは、ありし筥の心葉を、さながらなりけり。 さも思しよらず、興ある紋つきてしるき表着ばかりぞ、あやしと思しける。 「今年だに、声すこし聞かせたまへかし。 侍たるるものはさし置かれて、御けしきの改まらむなむゆかしき」とのたまへば、 「さへづる春は」 と、からうしてわななかし出でたり。 「さりや。 年経ぬるしるしよ」と、うち笑ひたまひて、「夢かとぞ見る」 と、うち誦じて出でたまふを、見送りて添ひ臥したまへり。 口おほひの側目より、なほ、かの末摘花、いとにほひやかにさし出でたり。 見苦しのわざやと思さる。 二条院におはしたれば、紫の君、いともうつくしき片生ひにて、「紅はかうなつかしきもありけり」と見ゆるに、無紋の桜の細長、なよらかに着なして、何心もなくてものしたまふさま、いみじうらうたし。 古代の祖母君の御なごりにて、歯黒めもまだしかりけるを、ひきつくろはせたまへれば、眉のけざやかになりたるも、うつくしうきよらなり。 「心から、などか、かう憂き世を見あつかふらむ。 かく心苦しきものをも見てゐたらで」と、思しつつ、例の、もろともに雛遊びしたまふ。 絵など描きて、色どりたまふ。 よろづにをかしうすさび散らしたまひけり。 我も描き添へたまふ。 髪いと長き女を描きたまひて、鼻に紅をつけて見たまふに、画に描きても見ま憂きさましたり。 わが御影の鏡台にうつれるが、いときよらなるを見たまひて、手づからこの赤鼻を描きつけ、にほはして見たまふに、かくよき顔だに、さてまじれらむは見苦しかるべかりけり。 姫君、見て、いみじく笑ひたまふ。 「まろが、かくかたはになりなむ時、いかならむ」とのたまへば、 「うたてこそあらめ」 とて、さもや染みつかむと、あやふく思ひたまへり。 そら拭ごひをして、 「さらにこそ、白まね。 用なきすさびわざなりや。 内裏にいかにのたまはむとすらむ」 と、いとまめやかにのたまふを、いといとほしと思して、寄りて、拭ごひたまへば、 「平中がやうに色どり添へたまふな。 赤からむはあへなむ」 と、戯れたまふさま、いとをかしき妹背と見えたまへり。 日のいとうららかなるに、いつしかと霞みわたれる梢どもの、心もとなきなかにも、梅はけしきばみ、ほほ笑みわたれる、とりわきて見ゆ。 階隠のもとの紅梅、いととく咲く花にて、色づきにけり。 「紅の花ぞあやなくうとまるる 梅の立ち枝はなつかしけれど いでや」 と、あいなくうちうめかれたまふ。 かかる人びとの末々、いかなりけむ。

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